第10章 憂鬱
でもめげないよ、俺。なんたって長男様だからな!
「問題解きながらならいいだろ?片手間で口動かすだけじゃん」
「片手間で会話してたら必然的に宿題も片手間になるよ。というかおそ松兄さんにそんな器用な真似できるわけない」
散々な言われようだが、図星なためここはあえてスルーだ。
「めんどくさかったら適当に相づち打ってくれるだけでいいからさ。頼むよ」
「………」
静かになる。やっと折れてくれたみたいだな。
いや、別に俺だってさ、一松を困らせたいわけじゃないんだよ?ずっと問題集とにらめっこしてるよりは、幾分か気が紛れるかと思って…ああ、紛れちゃまずいか。
とにかく、一松のお許しが出たんだ。なんか話題、話題…
そういえば、最近の学校生活について、一松から何も聞いてないな。入学したばかりの頃は俺たちがしつこく聞いてたせいもあってよく話してたんだけど。
かといってこいつ、自分のことに関しては踏み込まれるのをやたら嫌う質だから…軽くだな、軽く。
「一松、最近どうよ?学校」
問題を解く手は止めずに、一松に問いかける。
「…は?どうって…」
対する一松は、戸惑っているようだった。多分質問が予想外だったからだろう。
ここでさらに追及すると、一松はだんまりを決め込むか反発してくる。だから後は一松自身の答えを待つだけだ。
間違って「楽しいか?」なんて聞こうものなら、それこそ喧嘩に発展しかねないからな…
「…学校…」
ゆっくり、ゆっくりではあるが、一松は少しずつ言葉を紡いでゆく。
「正直…通うの自体がめんどうだし、たまに出る授業はつまらないし…」
「うん」
「…生徒も教師も目障りで、保健室に閉じ籠ってるほうが楽だって未だに思ってる…」
「そっか」
「……けど…」
そこで、一旦台詞が途切れる。俺は気にせず宿題をしながら、黙って続きを待つ。