第9章 夏休み
「最低最低最低おそ松くんのバカバカバカ」
「…頼むから横で変な呪文唱えるのやめてくれない?」
布団にくるまりながらぶつぶつと独り言を口にしていると、隣で寝ているイッチーが声をかけてきた。
「そんなに嫌いなら別れればいいのに」
「嫌いじゃないもん…ちゃんと好きだもん」
「じゃあ文句言うなよ。兄さんはああいう奴だってとっくに分かってることだろ」
「それは…そうだけど。乙女の繊細な心を傷付けた罪は重いんだから」
「…あっそ」
ごそごそと音がする。どうやらイッチーが寝返りを打ったらしい。
「そっち向いてもいい?」
「…ご勝手に」
私も寝返りを打ち、イッチーの方に体を向ける。といっても、目の前には彼の背中しかないけれど。
『隣で寝るのは許可するけど、その代わり僕がそっち向いてる間は絶対顔合わせるなよ』
なんて、先ほどの彼の言葉を思い出す。
最初は隣の空き部屋か居間を寝床として勧められたのだけど、1人で眠ることに抵抗があった私は、断固として拒否した。
自宅にいる時はそうでもない…というか半分諦めているから平気なものの、よその場所で完全に1人になるのはいつだって心細い。だから非常識とは分かっていたけど、断られるのを覚悟した上で、みんなと一緒に寝させてほしいと頼んだのだ。
もちろんみんなは大反対。おそ松くんですら駄目だと言い張ってきた。
そこをなんとか、と必死に頼み込んで頼み込んで、結局みんなが折れてくれて、現在に至る。
とはいえ…さすがに一緒の布団に入るのは非常識すぎたかな。私ってほんと意識しないっていうか、無防備なんだと自分でも思う。
でもまぁ、みんなのことは信頼してるし!おそ松くんは長男だから、そういう意味での抑止力も少なからずあるだろうし、というか何より色気0の私なんかを意識する人なんて誰1人いないはず!うん!……あ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
それにしても、おそ松くんがイッチーの横を指定するとは思わなかった。イッチーは不本意そうだったけど。
てっきり自分の隣で、とばかり言うと思ってたのに。夜の覚悟はどうなったんだか。
……まぁ、逆によかったかな。覚悟…できそうになかったもん。
そうだ。眠る前に、1個だけ。