第5章 すれ違う思い
さっきまで岩泉君が座っていた椅子に、今は徹が座っている。
ずっと、下を向いていて表情は見えない。
「「あのっ……」」
見事にハモってしまった。
再び気まずい空気が二人を包む。
私は徹の居ない方へと視線を向ける。
しばらくして徹が動いたかと思うと、徹の手が髪に触れた。
「ゴメン……」
先程までとは違い、声に覇気がない。
「雪乃を不安にさせた」
「……」
「目の前で雪乃が倒れた時は、マジで心臓止まるかと思った。しかも原因俺とか……ホント俺、彼氏失格だね……」
「自分の体調管理も出来ないようじゃ、私は人間失格だよ?」
「そんなことない、今の雪乃で十分」
「岩泉君も言ってたし、私の早とちりなんだよ。徹は必死に取り繕ってくれてたのに、それ見て楽しそうだなんて、私こそ彼女失格。徹を信じきれなかったんだもん……」
私は、また泣いた。
頬を伝う涙は徹の長くしなやかな指で拭われる。
「また、泣かしちゃったね」
「私、意外と涙もろかったみたい」
「ごめん」
「私も、ごめん」
やっと目が合うと、徹の目が少し充血していた。
私たちは泣き虫カップルだったようだ。