第1章 始まりは突然に
しばらくそうしていると彼と視線が合ってしまった。
彼に触れることに夢中になりすぎて、いつの間にか目を覚ましていたことに気付かなかった。
私は慌てて彼から手を放す。
「ご、ごめん……。夢の中だからって触りすぎだよね?? ごめん……」
「………………。別に、雪乃のしたいようにしていいよ。これは雪乃の夢の中なんだからさ」
普段は名前でなんて呼ばれたことがなかったので、私の心臓は今にも爆発しそうだ。
「な、名前……いつもは影山さんて//////」
「え~~? だって、夢は見る人の深層心理が出てくる訳でしょ? ってことは、その人がしてもらいたいことが叶っちゃうわけ♪」
「わ、私は名前で呼ばれるなんて!!?ゴホゴホ、ゲホッ!!」
「あ~~、そんなに慌てなくてもいいよ」
そう言って彼は私の背中をポンポンとしてくれた。
彼に触れられている部分が異常に熱を帯びているような気がする。
「それに、俺自身が雪乃って呼びたいって思ったからだよ」
「え?」
「好きな人の前では、本当の自分でいたいからね」
「及川君……夢の中だと本当に大胆だね……っていつもか;」
自分の夢の中のはずなのに、現実の事を考えるととても惨めな気持ちになっていく。
彼の周りにはいつも大勢の女の子がついて回っている。
最初はただのクラスメイトだったはずなのに、気づけば常に目で追うようになっていた。
所詮は私も、彼に群がる無数の女の子のうちの一人でしかない……。