第2章 近くて遠い距離
私はなぜ急に彼がそんなことを言い出したのか不思議に思った。
「なんで急に、そんな事聞いたの?」
素直に尋ねてみた。
「まさに、自分がそうだから……って言ったら驚く?」
「えっ!?」
何も言葉が出てこなかった。
彼は相変わらず寂しそうな顔をしているので、より一層真実味を帯びてくる。
「及川君が……多重人格? え……? ほんとに……?」
私は余りの衝撃に思考回路がショートしてしまったようだ。
頭をフル回転させても理解しきれない状況に私は頭痛がしてきた。
まさか、自分の周囲に多重人格者がいるなんて想像してもみなかった。
確かに、試合中の彼は飛雄のように別人のようになる事がある。
それが彼の言う、もう一人の人格……という事なのだろうか?
しかし、それでは試合中に”最愛の人”なる存在が話しかけたりしてないとまた違ってくる……。
という事は、今がもう一人の人格で、試合中の彼が”最愛の人”を見せられてる側という事か……?
私が一人で悶々と考えていると頭上でクスクスと笑う声が聞こえてきた。