第2章 近くて遠い距離
私の心臓はどんどんとスピードを増す。
彼にもこの音が聞こえているのではないかと思ってしまう程に。
「お、及川君……?」
私を見る彼の瞳には何とも言えない寂しさが浮かんでいた。
「どうしたの……何か、悩みごとでも……」
「ねぇ、もし影山さんに好きな人がいてさ……」
彼は急に話し始めた。
「その好きな人とは両想いで……ただ、その好きな人が自分のもう一つの人格の方と両思いだと気づいたら……どうする?」
彼の言っていることを理解するのに数秒かかった。
「私が多重人格者で、もう一方の人格と好きな人が両想いだったら……てこと……?」
「そう……」
「きっと、不思議な感覚なんだろうね……」
「そうだね。最愛の人は自分を見ているようで、本当はもう一人の自分を見ているんだから……」
「自分の人格も意識はあるってこと……だよね?」
「うん。最愛の人が言ってくれた言葉も、してくれた行為も全てもう一人の自分を通して見ているんだ」
今にも倒れてしまいそうな彼を私は心配そうに見つめる。
先程までの彼とは全くの別人のようだ。