第3章 〈其の手を〉
色々思考を巡らせていると後部座席の方から、バタンと音がして少しの揺れを感じた。
“太宰”さんが乗ったのだろう。
「そう云えば、君の名前を聞いてなかった。
教えてくれないかい?」
彼は私の方を向いて云う。
「人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀ッてもんじゃないんですか?
…どちらにしろ、名前は分からないので答えられないですが」
「おっと、失礼したね。
私の名前は太宰治だよ」
「…俺は中原中也だ」
帽子の男もジトッとした目で見つめると、目は合わなかったが名前を教えてはくれた。