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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第10章 生殺与奪


ザアッと地べたを擦りながら辛うじて受け身をとった牡蠣殻は、着いた手と足でグンと低く前に飛び出した。

懐に手を差し入れ、薄く細い両刃の短刀を逆手に構え、波平を思わせる速さで鬼鮫の膝頭目掛けてそれを振るう。

飛び上がって避けた鬼鮫の外套の裾がスッパリ斬り落ちて空に舞った。馬鹿に斬れる。しかしそれだけに脆いと見た。

飛び下がった牡蠣殻から目を離さず、鬼鮫が鮫肌を抜いた。鮫肌がザワついている。

さして旨くもなければ量もたかが知れている。砂で牡蠣殻が己のチャクラを評して言った事を思い出す。

ともすれば持ち主を引き摺って先走りそうな鮫肌の柄を握り直し、鬼鮫は地に手をついたまま此方を注視する牡蠣殻の姿を睥睨した。

味など二の次だ。飢えをもたらした原因を食んでその飢えを満たす以上の充足があるか?あろう筈がない。

牡蠣殻が手の内で短刀をクルリと反した。蹴られた箇所が痛むのか、腋を肘で固めながら咳き込んだその口が血を吐く。

出血が始まった。

鬼鮫は薄い笑みを頬に浮かべて容赦なく鮫肌を振り下ろした。

唇を噛み締めた牡蠣殻が、腋を押さえながら飛び下がる。
間髪入れず前に出た鬼鮫は、再び鮫肌を振るった。
リーチの長い鬼鮫の動きは、只の一歩で牡蠣殻を射程に治める。
今度は飛ぶ余裕もなく、袷の八ツ口を鮫肌に噛み千切られながら牡蠣殻は左に転げた。

力負けも短刀の脆さも承知しているのだろう。鮫肌に刃を合わせるような素振りは見せなかった。実戦の経験は浅いだろうに、思いの外冷静だ。
鬼鮫に痛罵されてきたような、考えなしではないのだ。

いっそ本当に考えなしならば良かった。
ものを考えぬ牡蠣殻であれば鬼鮫の側から離れる事もなかったかも知れない。

如何ともしがたい事と思っていた。掴み所なく口減らずで意固地にもの思うこの女をこそ、手にかけたいと思い続けてここまで来たのだから。

だが、もういい。

らしくもないこの女を追うことがあるかどうか、考えてもみなかったがわかった。

考える必要もない事だ。

何であってもこの女は自分のモノだ。それ以外のこの女の在り方は許さない。








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