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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第9章 闇夜


続いて採血していた重吾に問われて、海士仁は眉根を寄せた。

「・・・面倒」

「・・・アンタ怠け者だねえ」

呆れた水月に海士仁は笑った。

「まあな」

「カキガラはこのまま草に残るんじゃないのか?後宮で守りをすると聞いたんだが」

重吾が重ねて問う。

だとすれば、いずれは海士仁と話そうし、目を閉じて見ないようにしたものも否応なしに見てしまう可能性がある。

「珍し物好きのバカが呼び寄せた」

「珍し物好きのバカ?誰それ」

「為蛍が第二夫人芙蓉」

「へえ。美人なの?」

興味津々の水月に海士仁は苦笑した。

「人によろう。肉付きのいい派手な女だ」

「その人がカキガラを?知り合いか?」

「面識はあるようだが、さて」

磯の牡蠣殻がどうして草の第二夫人と知り合うのか、両里は互いが互いに冷たい。
海士仁は独り言ちる様に続けた。

「大蛇丸は簡単に磯辺を手放すまい。貸し出した、と言うのが正しい」

「つまり?」

「大蛇丸にも企みがあろう。磯辺は何か言い付かっている筈」

「ふん?そう?何か出来るとも思えないけどな、アイツ」

「思う程ボンクラではない」

「へえ?」

「投げ槍になってもいる。何をしても不思議ない」

話し疲れたのか、海士仁が息を吐く。

「ねえ、第二夫人て事は第一夫人もいるんでしょ?そっちはどうなの?美人?」

興味の赴くまま話をそらした水月に、重吾が呆れ顔を向ける。

「余程後宮に未練があるんだな。いっそ女装して忍び込んだらどうだ?」

「ボクを何だと思ってんのさ。流石にそこまではやらないよ。やれってんならキミも道連れだからな」

「馬鹿な事を」

海士仁は苦笑して冷めたお茶を煽った。

「第一夫人は知らぬ」

「え?何で?」

「知る者は少ない。螺鈿という。後は俺も知らぬ・・・そういう事になっている」

「何ソレ?都市伝説?」

「フ。馬鹿だな、お前。気に入った」

水月の頭を大きな手で撫でて、海士仁は湯呑みを片付けた。

「子が待っている。帰る」

「奥さんは?」

水月がまた興味津々の態になる。

「遊びに行っている。遊び好きな女でな」

にやりと口角を上げて海士仁は首に手を当てた。それが癖のようだ。恐らくはその傷がついてからの。

「腰が軽くて仕方のない売女だ」

「凄い言い方するなあ」






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