第9章 闇夜
「だが可愛い女だ」
真顔で告げて海士仁は二人を見た。
「磯辺に伝えろ」
「忘れなきゃね」
「お前には頼まん。頼むぞ」
水月にバッサリ言ってから重吾を見る。重吾は少し考えてから頷いた。
「どれ程話を聞くかわからないが、引き受ける」
海士仁は頷き返して部屋を出るよう目顔で促した。
「磯辺の血」
「は?」
出かけたところでまた話しかけられ、二人は足を止めた。
「あれの血の話はするな」
「・・・別にしやしないよ。聞かれでもしなきゃ。なあ?」
水月が訝しげに言って、重吾も頷く。
「聞かれてもするな」
海士仁は目をすがめて念を押した。
「あれを連れて帰る気なら、慎む事だ」
いよいよ話し疲れたか先刻より深く息を吐いて、海士仁は笑った。
「ここには欲の深い者が多い。気を付けろ」