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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第9章 闇夜


荒浜海士仁はどうやらカブトと似たような事をしているらしい。
音のラボを思わせる、しかし音のそれより片付いて綺麗な研究室で、海士仁は水月と重吾を座るよう促した。

「変わった質らしいな」

いきなり切り出されて二人は眉をひそめた。
海士仁はニヤと笑って細く長い手を宥めるように揺らした。

「大したことはしない」

「つまり?」

立ったまま短く切り返す重吾に、海士仁は再び座るよう目顔で促しながら、棚から茶器を取り出した。

「採血したい」

「うへ。ここまで来てまたソレ?」

座ろうとしない重吾を尻目に水月がストンと腰を下ろす。

「そうだ」

お茶を淹れながら海士仁が頷く。

「すぐすむ。俺も迅く帰らねばならぬ」

「何か用事?」

重吾の袖を引っ張って座らせながら水月が興味もなさそうに聞いた。海士仁は可笑しそうに笑いながらまた頷く。

「子が待っている」

その一言に重吾の眉間の皺が薄れ、水月は頓狂な声を上げた。

「へえええ、アンタお父さんなんだ?意外だねえ?」

「意外?」

「うん。何かアンタ人外くさいからさ。普通に親っぽくない」

「フ。人外」

「妖怪っぽい」

「お前が言うか、水月」

「河童?」

「!!!な、ななな何で!?ボクそんなに河童っぽい!?ウソでしょ!?人外に人外呼ばわり!?心底心外!!」

「面白いが煩い」

二人の前に湯呑みを置いて、海士仁は自分もお茶を啜る。

「河童は水がいいか?」

「河童じゃないって!ふざけんな!水下さい」

「面白い」

水月の湯呑みを下げて大振りのグラスに水を注いで出しながら海士仁が喉を鳴らした。

「草は豊かだろう」

卓に後ろ手をついて問う。

「何故かわかるか」

「・・・噂では」

「無い火は煙を呼ばぬ」

言い淀む重吾を制するように海士仁が言い捨てた。

「草は人を狂わす薬を商う」

窓から湿った重い風が吹き込んで、室の空気を掻き回した。

「儲かるが本道ではあり得ない」

海士仁は暗い表に目を走らせた。その顔に可笑しがる気配は微塵もない。

「磯では外道。禁忌だ」

採血に用いる用具を取り上げて、海士仁は真顔で二人を見た。

「快楽は身近く、嵌まると深い」

「そんな事言いながら注射構えないでよ。誤解を招くって」

「採血」

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