第9章 闇夜
「・・・・怖い?・・・・そう。いつの間に怖くなったんだろ・・・」
「あのさぁ、アンタがおかしな事になるとボクらが困るんだよ。大蛇丸やカブトに色々言われて来てんだからさ。何、怪我でもした?アンタ、血が止まんない体なんだろ?出血してんなら早く薬呑みなよ」
「・・・・・薬・・・」
呟いてカキガラは額に掌を当てた。
「・・・悪いんだけど、どっかいってくれないかな」
「大丈夫なのか?」
重吾が顔を曇らせ、水月が顔をしかめたとき、小部屋の重い扉が開いた。
「相も変わらず」
面白そうな低い声と共に細長い影が射す。
「見苦しい逃げ癖。愚かな」
「・・・・またアンタかよ」
水月がうんざりした顔を影に向ける。
「磯辺」
海士仁は額から手を退けて虚ろにこちらを見るカキガラへ、薄く笑って見せた。
「生きていた」
「見ての通り」
カキガラは苦い顔を俯けて膝に肘をつき、両の手で覆った。
「互いに生き汚い事だ」
「ふん?」
「草に居たんだな」
両の手の間からくぐもった声を出すカキガラに、海士仁はフッと笑った。
「探したか?」
「探したかって?・・・・いいや・・・」
「ほう?」
「・・・・探してはなかったと思う・・・多分」
「何故?懲りたか?」
手の隙から覗く顎の膏薬を見やりながら海士仁が眉根を寄せる。
「会いたくなかったから。お前にも杏可也さんにも」
「俺らから逃げるか」
海士仁の問いにカキガラは顔を覆ったまま首を振った。
「違う」
「深水師からも」
「黙れ」
「干柿からさえ」
「黙れって」
「いや、干柿からこそ」
「うるさいぞ」
カキガラが手をビュッと振った。
「・・・・あ・・・」
風が出た。
重吾と水月が思わず声を洩らす。風が海士仁目掛けて走るのがわかった。
海士仁は長く細く三つ編んだ髪を靡かせ、笑いながらこれもまた手を振る。
バヂッと派手な音がして、弾けた風が霰のように重吾や水月にも降りかかった。
「あだだッ、何だこりゃ・・・・」
剥き出しの腕を撫で擦って、水月が海士仁とカキガラを睨み付ける。
「何やってんの、アンタら!喧嘩ならよそでやれよ、迷惑!」
「ふん?悪かったな」
にやにやしながら海士仁が口ばかりの謝意を顕す。
「感じ悪ッ」