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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第9章 闇夜


素直に頷いた伊草に鬼鮫が眉を上げた。

「ほう。あなたここのお偉方ですか」

訝しげに首を傾げた伊草をよそに、独り言ちる。

「それはいい。実に好都合」

飛段とデイダラが顔を見合わせる前で、鬼鮫は腰を屈めて伊草に顔を寄せた。

「頼みがあるんですがね。聞いてくれますか?」








一人で後宮へ挨拶に行ったカキガラは、青い顔で戻ってきた。

暇を持て余して半分眠りかけていた水月と窓辺で鳥と戯れていた重吾は、顔色のないカキガラを見て驚いた。

「・・・・何?後宮ってそんなひどいトコなの?アンタ、真っ青だよ?」

だらしなくもたれていた寝椅子から身を起こして、水月はカキガラをマジマジと見た。

「横になった方がいい」

水月の腕をむんずと掴み上げて重吾が寝椅子を目で示す。

「ちょ、止めろ、コラ!痛いな!退けって言えばちゃんと退くんだから、人を猫か何かみたいに扱うのはやめろよ!」

「・・・・・・・・・」

カキガラは何か言いかけて口を開き、二人を見比べてまた口を閉じた。

「パクパクしちゃってゲロでも出んの?出すならよそでやってよね。ボク貰いゲロする質だからさ」

重吾の手を振りほどいた水月が、眉をしかめて腰に手を当てる。

「じゃなきゃサッサと横になれよ。折角ボクが退いてやったんだからさ」

「・・・・・・これは・・・頭が悪い・・・。具合じゃない」

真顔で答えたカキガラに、二人は妙な顔をした。

「・・・・大丈夫なのか、ホントに?」

「いやぁ・・・・これヤバいんじゃない?何言っちゃってんの、この人は?そりゃ頭悪いか知んないけどさ。今言わなくていいじゃん」

水月に言われてカキガラの虚ろな目がフラフラと泳いだ。

「・・・・そうかな」

「そうだよ」

「なら後にしておく・・・」

「いやいやいや、アンタの頭が悪い話なんか改めて聞きたくないから!」

「・・・そうか・・・」

カキガラはぼんやり頷くと、寝椅子に腰を下ろした。

「じゃあ・・・悪いけどどっか行ってくれ」

「ちょっと!?」

「・・・・何だよ」

目を吊り上げていきり立った水月に、カキガラが土気色の顔を向けた。この僅かな間に目の下の隈がいっそう深まって真っ黒になっている。

「頭が悪いんでも具合が悪いんでも構わないから、寝ろよ。怖い事になってるぞ、顔が」

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