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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第9章 闇夜


また鬼鮫に秋波を送る伊草に飛段とデイダラは更に一歩下がった。

「本気か」

「本気だな、うん」

「だって鬼鮫は牡蠣・・・」

「バカ、黙ってろ。コイツが鬼鮫をいいってなら、色々丸く収まるぞ、うん。鬼鮫は上の空でこっちの話なんか聞いちゃいねえし、押し付けちまっても問題ねえだろ。取り合えず。こっちゃこっちで忙しんだからよ、うん」

「牡蠣殻のヤツァ見つかったんだろ?もうお役御免だろォが?」

「・・・あ?うん。まあな」

デイダラは言葉を濁して目を泳がせた。

杏可也。

紗で隠しても、あの嫋やかな風情は覆いきれるものではなかった。
ひらひらと豪奢な見慣れない衣装は、円みを帯びた優しい輪郭を艶かしく華やがせていた。

ああ、やっぱり綺麗だ。

デイダラはあのとき、瞬きも忘れてその姿に見入っていた。

凄く綺麗だけど杏可也。アンタ、磯の素っ気ない格好の方が似合ってるよ。うん。派手なモンなんかアンタにゃ要らねえんだ。そんなモンなくたって、アンタは充分綺麗なんだぞ。わからないのかよ。

はらはらと海棠の花片が落ちかかる中で、杏可也は美しく着飾った女たちと笑いさざめいていた。蝶や鳥のように、楽しげに軽やかに。

傍らに染みの様に佇んでいた牡蠣殻とは、何もかもが対照的だった。

・・・何であの二人が一緒にいんだ?牡蠣殻も磯を裏切ってたのか?マジかよ。・・・・杏可也がいるってこたァ、荒浜とかいうのもここにいるって事か・・・

デイダラは胸苦しくなってギリと奥歯を噛み締めた。

何でだ、杏可也?
深水の子はどうしたよ?何で笑ってんだ。深水はもうアンタの側にゃいねえんだぞ。どうしてまた笑ってんだ?うん?

木の葉から砂へ杏可也を運んだあの夜。デイダラは杏可也を観音様のようだと思った。深水に駆け寄って甘える様子を可愛いと思った。腹中の子を愛おしむ顔に仏性を見たと思った。

オイラは杏可也に会いてえんだ。会ってどうするかなんてわかんねえ。でも、会って、目を見て話してえ。・・・・うん。それだけだ。

どのみち座居観音は造らずに居られない。そんな自分をデイダラは痛い程よくわかっていた。そしてやはりどのみち、それを杏可也の手に渡さずにはいられないだろう。

ただ、その行き先を見極めたい。どんな杏可也に、精魂傾ける事になるだろう座居観音を委ねるのかを。


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