第8章 華やかな垣根の向こう
鷹揚なのか人を食っているのか、鬼鮫とデイダラが庭園を歩いていても咎め立てする者は居なかった。
「胡乱な者は里に入るべくもないと言う自信の表れですかね」
誰何される事もなく只好奇と、恐らくは侮蔑の入り交じった目で見られるのみで、易々と後宮まで辿り着いた鬼鮫は、不快げな顔で呟いた。
金雀枝の茂みを煩わしげに掻き分けながらデイダラが顔をしかめる。
「よくわかんねえけど、簡単すぎて反ってバカにされてるみてェな気になンな。うん。何か感じ悪ィんだよな、この里」
「不本意ながら同感ですねえ。どうにも慇懃無礼な・・・」
「ホント言ったらオメエ、ここの出なんじゃねえのか?うん?」
「・・・面白い事言いますねえ・・・・どういう意味か聞いたら答える度胸はありますかね?デイダラ」
「答えるまでもねえだろ。うん?」
片口を上げたデイダラに鬼鮫が剣呑な笑みを返したとき、きゃらきゃらと泡が立って弾けるような娜よやかなさんざめきが沸き上がった。
目に綾なとりどりの衣装を柔らかく纏った艶やかな一団が、朱を基調にした宮から現れる。
「・・・・・・・」
鬼鮫が腕を伸ばしてデイダラを金雀枝の茂みに留めた。
後宮の后妃たちだろう。高居で見かけた男達が鮮やかに濃い色を纏っていたのに較べ、この女達は淡く柔柔した色の衣装を好むようだ。いや、主たる男がそうした色合いを好むのかも知れない。それが的を射ているように思えた。
デイダラが言ったフワフワした場所という言葉がぴったり来る明るさで、辺りの樹花も色褪せる程だ。
「へえェ。若い女ばっかって訳でもねんだな。うん。色んな女がいる・・・」
「静かに」
鬼鮫は小声で漏らしたデイダラを見返りもせずに短く諌めた。
丈高い体が張り詰めている。言い返しかけたデイダラは、それを受けて大人しく口を噤んで金雀枝に身を潜めた。傍らの鬼鮫に目を走らせると、辺りに満ちていた花の香りが消えたように思える程集中しているのが伺える。
鬼鮫は伸ばした手を納めて、目をすがめた。