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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第8章 華やかな垣根の向こう


「後宮なんて言われてもさあ。他人のハーレムに紛れ込むなんて別に嬉しくも何ともないよね。そらまあ、自分好みの女の子ばっか集まってるってんなら話はべつだけど」

「・・・さっきからその話ばかりしているな、水月。素直に楽しみだと言えばすむ事なのに、正直くどいぞ」

「あぁ?何だよ重吾。キミは興味ないってか?いーや、有り得ないね。ボクらの歳で女の子に興味がない男なんて、ボクは認めないよ?あー、認めない。認めないね!」

「矢張り興味津々か・・・」

「悪い!?健全じゃん!?健全だよ!?健全で悪い!?健全なボクに何か!?」

「いや、別に全く何もない。ただくどいと思っただけだ。気にしないでくれ」

「なんっか腹立つよね、キミってさ?何なの?そんなに嫌われたいの?一匹狼症候群?は、ダサ」

「ああ、ダサいな。何だ、一匹狼症候群って?」

「揚げ足とるなよ!」

「?普通に不思議に思っただけだ。どこが揚げ足なんだ?」

「それも揚げ足だよね!?」

「・・・お前の言う揚げ足って一体何なんだ?俺にはちょっとよくわからない」

「残念」

案内役のバカに細長い男がポツリと呟いて、水月と重吾は口を噤んだ。

朝早くに叩き起こされ、喚く香燐に引っ掻かれながら実験の手伝いをさせられ、訳もわからず草に送り込まれ、着いて早々同行のカキガラと引き離され、主に単語しか話さない妙な男に連れられて、二人は高居の長く豪壮な回廊を歩いていた。

「何だよ。何が残念なのさ」

ムッとした水月に男は切れ長で黒目勝ちすぎる目を向けた。
何もかもが細く長い異相の持ち主だが、不思議に目を惹く。切れ込みのような唇の薄い大きな口の端を上げて笑いながら、顎を浮かせたその首にギザキザとした赤い傷痕が覗いた。

「残念」

尚も可笑しげに笑いながら、男がまた低く言った。
水月は眉をひそめる。

「だから何が」

「行かぬ」

「あ?」

「行かぬよ」

「行かないって何処に・・・」

「後宮には行かないと言う事だろう」

見かねた重吾が口を挟む。水月は目を見開いた。

「マジで?何でだよ?カキガラだけ?」

「フ。おめでたい」

鼻で笑った男に水月は目を三角にした。

「ムカつくな!普通に話せよ、人に通訳させないでさ!」

「サスケは?」

「あ?」

「サスケ」

「・・・何、アンタサスケの知り合い?」
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