第2章 春の磯
今回磯が仮の居住地と定めたのは、細やかな小川がせせらぐ木立沿いの三日月型の平地だった。
林の中にポカリと空いた穴のような不思議な空間で、しかしこういった場所は珍しくないと藻裾は事も無げに言う。
「ここはさ、猪やら鹿やらの泥浴び場だったんだよ。連中が泥を体に擦り付けて転げてるうちに、地盤が固くなって深い根を張るモンが育たなくなった訳。ここを使ってた群れや家族なんかが、代替わりして縄張りを変えたり食い物が足らなくなって移動したりした後も、地盤は固いまんまで木が生えない。で、ポカッと広場になって残っちゃってんのさ」
水仙が揺れ、菫や蓮華が咲き乱れる気恥ずかしいほど綺麗なこの場所が動物の泥浴び場だったとは俄に思い辛いが、言われてみれば成る程納得いく。
「ふぅん。そうやって話してると化けも人間って感じじゃん?」
興味深げに辺りを見回しながらカンクロウが言うのに、藻裾はにっこりした。
「そりゃどういう意味だ?」
「もういいから。いちいちもめんな、メンドくせェ」
不機嫌な顔を取り繕いもせず、チッと舌打ちしたシカマルに藻裾とカンクロウが嬉しそうな顔をする。
「なーんか悪ィな、奈良。テマリが来れりゃ良かったんだけどな。アイツも色々忙しくてよ!ごめんネごめんネ~!!!!くっ、くくく・・・ッ」
「バッカ、ジャンジャン、そんな事くれェで不機嫌になるバンビマルじゃねえぞ。こんな乙女チックなとこでテマリあねサンを恋しがるようなバン・・・・バ・・・バンビ・・・バ・・・・・バハハハハハ!!!駄目だ、受ける!何だバンビ、オメエこういうとこで愛を囁きたい人なの!?鼻先でクルンクルン花なんか回しちゃいながら!?ブッ、ギャハハハハッ、チッチとサリーかよ!?ダハハハハ・・・・ッ、く・・・・苦しい・・・は、腹痛ェ・・・・!!!死ぬる!!!!」
「・・・・・・」
「や、流石に笑いすぎだろ。奈良が呆れ死にしそうにしょっぱい顔してるぞ?」
「だってこの三白眼がお花持って愛を囁いちゃうんだよ?頬杖なんかついちゃってさ。プ」
「愛だか何だか知らねぇけど好き同士なら勝手に囁きゃいいじゃん?オメエだって我愛羅とそういう事したくなるかも知んねえじゃん」
「ん?アタシと我愛羅さんならありでショ?」
「オメエの片寄った弁当みてぇな恋愛観なんかどうだっていんだよ。早いとこ草摘んで戻るぞ」