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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第2章 春の磯


渋い顔で言ったカンクロウに波平と藻裾がグルンと顔を向ける。

「ならそいつを食ったら何があるかわかる訳、ジャンジャンは?」

「・・・何があるって何があんのよ?食ったら腹が膨れるモンじゃん?他に何があんじゃん?毒でも盛る気か?」

カンクロウの言葉に波平が朗らかに答えた。

「確かに、芹によく似た毒芹を口にすれば大変な事になりますね。野蒜の芽と水仙の芽を過てばこれもまた毒だ。腹を膨らますどころの話ではなくなります」

「昼飯は毒って話かよ?」

「・・・・・・・・オメエは心底ジャンジャンだなぁ・・・」

「だから何なのよ、そのジャンジャンは?どういう意味でつかってんの?俺はどう心底ジャンジャンなんじゃん?そろそろ断固説明を要求するよ、俺は」

「はぁ。これだからジャンジャンは・・・」

「私たちが日々口にするものにはすべからく薬効があります。知って損はありません」

もめる二人をよそに、波平がシカマルを見て穏やかに頷く。

「言うほど野草に暗いことはないでしょう。在るものを生かして己を生かす技量を備えるのも忍の嗜みですからね」

この波平の言葉にシカマルは不意を突かれた。

考えてみればこの口が達者で本草の知識に長けた磯の民たちもまた、シカマル同様忍なのだ。
藻裾は兎も角、波平や牡蠣殻、木の葉に根を下ろし始めた磯の民を見る限り、忍らしさに著しく欠けているものだから失念していた。

「ああ、無理もない。私たちから忍と聞いてもピンと来ないだろうね」

シカマルの様子に波平が敏く笑った。

「しかし他所からどう見えようと、私たちも未だ忍の端くれではあるのです。何にでも必然から思いがけなく派生する様々な形が有り得る。私たちはそうした形のひとつと言えますね」

「・・・・必然から思いがけなく派生した?」

「在るものを生かして己を生かす技量を突き詰めた挙げ句、そこに意義を見出だした忍がいたという事です」

波平は面白そうにシカマルを見て、指を組んだ両手の甲に顎をのせた。

「さあ、外へ行って藻裾に野草の講釈を聞いて来て下さい。藻裾は本草が得手ではありませんが、あなたたちに薬草の話をする程の知識は持ち合わせていますよ。あれもまた磯の民ですからね」



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