第8章 華やかな垣根の向こう
草は面積が広い訳でも人口が多い訳でもない。
が、入り組んでいる。巧妙に罠を張るように町並みを造り、住居を構えている。
どっしりとして造りの巧みな家はどれも金と手間のかかった豪奢なものだ。この里の君主は代々気前が良いようだ。里人に贅沢を禁ずる事なく栄えるのを許してきた来歴がありありと見てとれる。
里への出入りこそ制限されているが、草は磯程閉じた里ではない。里人は商才に恵まれ、世古長けた外商で各々が里に利益をもたらし、草はますます栄える。
草の者は賢しらで世渡りが巧い。身綺麗で品良くおっとりと話す様に絡めとられ、気付くと良いように使われている。
話術と薬と聞けば磯と似ていなくもないが、両者は以て非なるものだ。
磯が流しの定斎なら草は大店相手の老舗問屋。
どちらも渡りを着けづらいところだけは同じ。
「磯と草の肌が合わないのも頷ける・・・」
官人らの好奇の目を流しながら、鬼鮫は豪奢な高居の様子に口角を上げた。
「詳しいな。オメエ、草に来た事あんのか?」
堂々としていれば意外に誰何されることがないのに気付いたデイダラが、気が抜けたように辺りを見回しながら首を傾げた。
「調べたんですよ」
素っ気なく言った鬼鮫にデイダラは目を向ける。
何で、と、聞きかけて止める。鬼鮫が以前に磯についての乏しい情報を弛みなく集めていた事を思い出す。
何で、と、また聞きかけて止める。
答えがあろうとは思えないし、あっても理解出来るとは限らない。
鬼鮫にしかわからない事だし、牡蠣殻だけがわかればいい事だ。恐らくは逆もまた然り。
意味が違うとわかっていても、杏可也の顔が脳裏を過った。
「ここに後宮というものがあるのを知っていますか」
鬼鮫に振られてデイダラはフッと物思いから覚めた。目を瞬かせて鬼鮫を見上げる。
「後宮?」
「女性ばかりが集められた奥の宮ですよ。興味ありますか?」
「うん?無くもねェけど、えーと、何だ?鬼鮫はそこに行きてェのか?うん?」
「ほう。珍しく呑み込みがいいですね。どうしました?慣れない環境に脳細胞が変革しましたか」
「うるせえ。オイラァ元々何でも呑み込む懐の深ェ男だぞ。磯の狂犬を相手にするくれェの器を甘くみんな?ドイツのビールジョッキより容量がでけェんだからな、オイラは。うん」