第7章 飛段、孤軍奮闘
素直に頷いた伊草の傍に、官服姿の男がツイと近付いて来た。飛段へ慇懃な笑みを見せながら、伊草の耳許へ口を寄せる。
「伊草様。ちとお話がございまする・・・」
他里で言えば官舎にあたるであろう高居と呼ばれる壮麗な建物には、伊草ほどではないものの華やかな明るい色合いの衣装を纏った官人がゆったりと行き来している。
役人とは思えない豪奢な着衣と無意識の横柄さが産む品の良さで、誰もかれもが貴族のように見える。飛段にしてみれば物珍しくもいささか滑稽な風景だ。
「ほぉん・・・金は唸ってんだろうが、退屈そうなとこだな、こりゃ・・・」
飛段から少し離れたところでヒソヒソと言葉を交わし会う伊草を見るともなく見ながら、飛段は欠伸を洩らした。
何を話しているのか、伊草が驚いたように手で口を覆うのが目に入る。
「?何だ?いよいよ継承権が発動したかよ?ゲハハッ」
一人で笑う飛段の元へ、伊草が巨体を揺らしてチョコチョコと戻って来た。
「飛段殿、飛段殿、良き報せが二つ!どちらから聞かれやるよな、もし?」
「知らねえよ、二つったってどっちがどっちだかわかんねえのに何をどう選べっつの?わかるように話してくんねえか。メンドくせェなぁ、もう」
「んー、ひとつに逃げたものの事、ひとつに探しているものの事、さあ、わかるかえな・・・だはッ」
「デイダラと牡蠣殻の話だろ?わかり易すぎだバカ」
「ひ、飛段殿。わちにも一応立場というものがあるぞえ。官人の前でポンポンはたき回すのは止しゃれよな、もし」
「知るか。そんなカッコして見栄張ってンじゃねぇっての。立場考えんなら先ず着替えろ、変態親爺」
「キ、キツイわなァ、飛段殿・・・誰もわちにそんな乱暴な事は言わんぞな、もし」
「そら、それこそ立場を考えてんだろォよ、周りの連中が。いい歳こいて人に気ィ使わせてんじゃねえぞ、オメエは」
「・・・・もしかしてそれもこれも、わちの為を思うての諫言かの?これは・・・愛・・・・・ぶべッ」
「オメエの周りを思っての正直な忠告!忠告だよ!オメエそのうちその見苦しさでショーガイジケンを起こされかねねえぞ?犯人がカワイソーだろうが!イタいのツラいのクルシーのァ大っ嫌いだってんなら見た目から大人しくして人ォ困らせんのは止めろっての!」
「ふおぉ・・・飛段殿の拳は固うてかなわんわいな、もし」