第7章 飛段、孤軍奮闘
草は絶対君主制の里であり、磯とはまた違う形で他里との関わりを制限して来た。
則ち華冑人の住まう天上地。世襲される君主が敷く司政に従い、製薬を旨にした外商を以て莫大な富を蓄え、里を強化し、外からの干渉を一切受け付けつけない。
雅やかで豪奢な里の様は特筆に価するものの、里外人は容易にそれを目にする事は出来ない。
「それがいきなり後宮を覗けるのだから、果報な事ぞ?わかっておられ・・・・まいな、うむ、わかっておられまいの。やれ無邪気な」
「悪ィけど全くわかっておられねェよ。いちいち勿体つけてっとサックリ息の根止めっぞ?儀式も抜きで速攻ぶっ殺すからな、アンタに関しては。捧げモンも選ばねえと、ジャシン様にセンスを疑われちまうからよ。すまねぇなあ」
「わちを殺したりしたら飛段殿もただですまんぞえ?何せわちは王の弟、継承権を持つ身の上よ、もし」
「アンタに継承権ねえ・・・ひでェシステムだな、君主制ってなァ」
「わちもそう思うわいよ。六十にもなって継承権なぞいらんがな、もし」
情けない顔をした伊草に飛段はゲラゲラ遠慮なく笑った。
「そらそうだろォな」
「間違って跡目など継ぐ羽目になったらば、要らぬ苦労で寿命が縮まるのは目に見えておるぞな、もし。わちはそんなの御免被るわいな」
「アンタが頭目だっつう里ってのも面白ェんじゃねえの?俺ァ居たかねェけどな、そんな里」
「うん。わちもそんな里には居とうないわよな」
「ゲハハッ、ところでアンタ、折角着替えたってのにまったビッカビカなカッコだなァ?何それ?」
文金高島田を脱いで朱色に金糸の縫い取りが目に痛い漢服に着替えた伊草に、飛段は顔をしかめる。
「これは礼服ぞな。華服だわいな。後宮へ出向くのなら正装さねばよ」
「正装まで女モン?好きだねえ、動き辛くねェかよ?」
「わちはそんなに動き回らんでも良いんぞな、もし」
「ハン、お偉いさんだからか」
「うん。わちはお偉いさんぞえ」