第6章 満月
未明、大蛇丸がアジトに戻った。
何処で何をして来たのか、至極機嫌が良い。
「あのコはどこにいるかしら」
出迎えたカブトに牡蠣殻の所在を尋ねる。
カブトは肩をすくめて目線を廊下の端に走らせた。
「多分部屋にいると思いますが、もしかしたら何処かうろついているかも知れません。・・・牡蠣殻は睡眠障害を起こしていますね?いつからです?」
「いつからって、気付いたらもうあんな感じだったわよ。治るのかしらね、あれ」
目で示された部屋へ向かいながら大蛇丸が薄笑いする。
「深水の事が引き金になったのなら、そう易々と治らないと思いますよ。心因性のものですからね。原因を取り除かなければならないのに、原因が居ない。ハハ、面倒だな」
「あんな小間切れにしか寝ないでいてよく保つものね。トータルでどれくらい寝てるの?」
「知りませんよ。四六時中ついている訳でなし・・・」
カブトは肩をすくめて憮然と答えた。
「昼夜を問わず好きに動いてるから、いざ用があっても簡単に捕まらないし、正直迷惑ですよ」
「まあまだ怠けていたいんでしょうよ。放っておきなさい」
「・・・そう言う大蛇丸様はアレに用を申し付ける気なんでしょう?」
「何?いけないっての?アタシがアレをどうにでも出来るのは、本人公認なのよ?アンタが兎や角言う事じゃないわね」
「兎や角言う気なんかありませんよ。しかし何をさせるつもりなんです?牡蠣殻で足りる用なんですか?」
「フ。あの空貝には打ってつけよ」
大蛇丸は呑み込み顔でほくそ笑んで、牡蠣殻がいるであろう部屋のドアに手をかけた。
中には果たして煙草を噴かしながら何か書き物をしている牡蠣殻が居た。
ぼんやりした目を大蛇丸とカブトに当て、暫し呆けたように二人を眺め入った後、我へ返ったように瞳の焦点を取り戻す。
「煙いわねえ。煙草は正直止めて欲しいわ。嫌いなのよ、この匂い」
纏い付くように部屋を覆う薄白い煙を手で払って、大蛇丸が顔をしかめた。
牡蠣殻は黙って二人を見ている。
「灰が落ちるわよ」
大蛇丸に言われて、ストンと煙草を灰皿代わりの丸小皿に落とす。煙草は朱色の丸小皿の上で、主を失って尚燻り続けた。