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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第6章 満月


産まれたガキが誰の子だってオイラは知らねえ。あン時の杏可也とした約束は、あン時のまんまだ。フカのバカタレが死んじまったりすっから面倒になっちまっただけだ。バカタレ!ガキが産まれるってのに死ぬバカがいるかよ!

杏可也と深水とその子に、造ってやりたいものがある。
上手く行くかどうかもわからないが、白檀で座居観音の香炉を彫り、それ自体を香として内から燻らせるという趣向を試したいのだ。
それ自体香であり香炉である座居観音は、瞬間という刹那にはきえないだろうが、いずれその身を燻べて煙となり、灰となり、消える。

高価な白檀を使って造るには今の己の腕は未熟。無謀だろう事は覚っている。しかし、他の雑木で試作するつもりも、失敗したからと言って二度目を試すつもりもなかった。

たった一度の創作に、全てを傾けると決めた。

それが稚拙な駄作であったとしても、やむを得ない。それまでの事。

刹那こそ芸術。顕れ消えるものの意味を問う自分に、あの一時の感情を注ぎ込むだけの無謀な創作はこれ以上なく相応しい気もした。

そして、杏可也に見た仏性。あれが間違いだったのかどうか、己自身で確かめたい。

鬼鮫が牡蠣殻を追うように、デイダラもまた何処かで杏可也を追っていた。

「・・・・オイラは知りたいんだ」

あの月の明かりに騙されたのかどうかを。

「私も知りたいのかも知れません」

思いがけず返ってきた鬼鮫の言葉に、デイダラは眉を寄せた。

鬼鮫は月を仰ぎ見て呟くように続ける。

「あの女が側に居た事が本当だったかどうかを」









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