第6章 満月
「安心しなさい。イタチさんも私も口は軽くない」
「お前に話しちゃってる時点で軽いっつう話だろ!?」
「ふん?では別に隠すような話ではないと判断されたのでしょうね。まぁ私もそう思いますよ。あなた、白檀の塊が欲しいのでしょう?」
ムッツリしたデイダラに、鬼鮫はますます訝しげな顔をする。
「隠すような事ですか?あなたの事だからそれで何か造る気でいるのでしょう。上質な白檀を塊で求めるとなると決して安くはない。簡単に手が出るものではありません。それを推してまで何を造りたいのです?」
「そうやってうるさく聞かれんのがヤなんだよ!ンっとにデリカシーってモンがねえ、ここの連中は!繊細なオイラは生き辛くってかなわねェよ、うん!」
「・・・・これが他の連中に起きた事なら真っ先に食らい付くのはあなたと飛段に他ならないと思いますがね。現に私の部屋で伝書の手紙を探しているのは徹頭徹尾あなたたち二人でしょう。誰が繊細ですか。あなたはむしろ浅才ですよ。うちのリーダーは大概物事の本質を打ち外す才に長けた人ですが、あなたと飛段を組ませるという最大最悪の愚を犯さなかった事だけは褒め称えたいところです。彼の来歴を鑑みれば、あなたたち二人を組ませる事は避けられない宿業だとさえ思えるのに、よくもやらかさずに済ませたものだ。今考えても驚きですよ」
「三人まとめて延々とクサしやがって、ホンット嫌味くせェヤツだよな、オメエはよ。うん?」
「私は自分に正直なだけですよ。殊更に嫌味を言っているつもりなどありません」
「尚悪ィや。もういい。オイラは行くぞ」
「希少な白檀と言えば仏像。あなたの頭に何が在るか、見当がつかなくもない」
デイダラはチッと舌打ちして足を止めた。
鬼鮫は珍しいものでも見るようにそのデイダラの後ろ姿を見やる。
「不貞を働いた女が仏形に相応しいと、デイダラ、そう思いますか」
月が明るい。
あの磯の散開の前夜、この白い光に照らされたあの嫋やかな顔には確かに仏性が窺えた。それが見た目だけのものだとしても、あの異形ともとれる穏やかな美しさは、確かに人を惹き付けて止まない仏の面影を宿していた。
デイダラはそれに囚われた。
子が、あの時はまだ腹中にいた子が既に産まれている筈だ。
約束したのだ。深水と子と杏可也に、見せてやるとデイダラは確かに言ったのだ。