第6章 満月
アジトの表で不意に腕を捕られて、デイダラは息を呑んだ。
「んなッ、何だよチクショウッ、びっくりすんだろ!?声もかけねえで何だテメエは!うん!?このバカ!!」
待ち構えていたような落ち着いた様子で月明かりの下に姿を現したのは鬼鮫。
「私を馬鹿呼ばわりすると痛い目にあいますよ」
疎ましげにデイダラを離すと、腰に手を当てる。
「草にいくのでしょう。私も行きます」
「鬼鮫。こいつはオメエの任務じゃねえぞ?うん?オイラと飛段の仕事だ。オメエはお呼びじゃねェ」
珍しく諭すように言ったデイダラに、素っ気ない声が返った。
「私がそうすると言ったら誰に止められるものではありません」
「大体オメエが顔出したって・・・」
言いかけてデイダラは口を噤む。
鬼鮫の顔に凄いような笑みが浮かんだ。
「私が顔を出したって?何だって言うんです?よしんば草に居るかも知れないあの女がまた逃げ出すとでも?」
デイダラの上へ覆い被さるように出た丈高い体が月を背に暗く陰る。
「それを私がこれ以上許すとでも?」
「オイラに凄むなよ。テメエ、牡蠣殻を見付けたとして、アイツをどうする気だ?殺すのか?」
「・・・・」
「あんま気が進まねえな。深水の二の舞みてえのはオイラ見たかねえぞ。うん」
「深水さんの二の舞?どういう意味です」
「痴情のもつれで刃傷沙汰みてえな?」
「・・・・デイダラ。あまり昼下がりの情報番組ばかり観ているとあなたもいずれ大蛇丸みたいになりますよ?」
「何だ?社会情勢に疎くしてると時代の波においてかれっからな。案外面白いぞ、アレ。オメエも観ろ?観て勉強しろ、鬼鮫」
「新聞というものがあるのは知ってますかね、デイダラ?」
「濡れた靴に突っ込んだり芋焼く焚き付けに使ったりするヤツだろ?それが何だよ」
「・・・いや、いいですよ。因みに寒いときは体に巻き付けると結構な防寒作用がありますよ。油紙ですからね、アレは。山で遭難したときなんか大事な豆知識です。まあ、あなたにとっての新聞はそういう感じで始まって終わるんでしょうから、せいぜい覚えておきなさい」
「使えんな、新聞!」
「・・・あなたや飛段に社会情勢など必要ありませんよ。要らない情報を空っぽの頭に詰め込んでる暇があったら、せめて絵本でも読みなさい。・・・まさか絵本は読めますよね?」