第4章 成り損ないの蛇とカキガラ
壁に寄りかかって腕組みし、窓の表を眺めていたサスケは、またあらぬところから湧くように吹いてきた生温かい風に顔をしかめた。
「・・・・またお前か」
不意に現れた女に驚きもせず、サスケは腕組みを解いた。
「出たり消えたりすれば風が吹く・・・・お前、磯の者か」
サスケの言葉に女は頷きかけて首を捻り、次いで振って、おそろしく面倒そうな顔をした。
サスケは女の様子にはてんで頓着なしに淡々と続けた。
「大蛇丸が姿を眩ます直前まで、ここに磯の男がいた。そいつもお前同様、風を吹かせては消えたり現れたりしていた」
「そいつは今何処にいる」
女から出た低い声がうわずった。
サスケは眉を上げたが、首を振って答える。
「少なくともここにはいない」
「・・・・・」
女は溜め息を吐いて椅子に腰かけた。
「あの海蛇に何の用だ?」
サスケの声音がほんの僅か、面白がるような響きを帯びる。耳聡くその響きを聞き付けた女はサスケを睨み付けた。
「アイツに用のあるヤツは多そうだな」
「何故」
間髪入れずに問われてサスケは顎を引いた。女のキツい目を見返して表情は殺したまま口だけで笑う。
「ここにいる間はそう思わせるところがあったが、違うのか」
「・・・・・・」
女は左の目だけずぅっと細めて、次に続く言葉を待つようにサスケを眺め渡した。
「俺よりお前の方がヤツに詳しそうだな」
サスケは再び腕を組んで壁に寄り掛かった。
「死んだと思っていた大蛇丸がお前を連れてきた。一体何があった?」
「・・・ない。何も」
馬鹿に素直で無防備な表情で、女はサスケではない誰か他の者にでも答えるかのように茫洋と目を霞ませた。
「思わせ振りは止めろ」
サスケがイラッとした様子で吐き捨てた。
「言え。この半年、何があった?お前、大蛇丸といたんだろう?」
「そういう面倒な事はあの人に聞いてくれ」
女は焦点を取り戻した目をスイとすがめた。
「どのみちあの人が話すだろうよ。待てばいい」
「俺はお前に聞いているんだ、女」
「私は牡蠣殻だ。女とは名乗らない」
「カキガラ?ああ、カブトも言っていたな。変な名前だ」
「カキガラじゃない。牡蠣・・・どうでもいいか」