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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第4章 成り損ないの蛇とカキガラ


廊下ですれ違い様、香燐は舌打ちをした。相手に聞こえる程度、と言って、詰め寄られたら思い違いと言い張れる程度、そのくらいの舌打ち。

女は振り返らなかった。

気取りやがって。

思わず本気の大きな舌打ちが出た。

あ。

聞こえたか?

振り向くと女と目があった。あっちも振り返っていた。

「・・・・・・・・」

顎を引いて睨み付けると、女は目を瞬かせる。面白がるような色がその目に翻っていたが、香燐はそれに気付かない。威嚇するように女を見返すのでいっぱいになってしまっている。

「・・・・何。何か用?」

肩をそびやかせて凄む香燐に女は首を振った。何かがチリと鳴る。香燐は眉をひそめた。

「熊避けかよ?チリチリうるさいぞ」

「男避けだ」

即答した女に香燐はひるんだ。答えがあるとは思わなかった。しかも男避け?

「避ける程寄って来ないんじゃないのか?自惚れるな」

強いて薄笑いを浮かべて皮肉ると、女は素直に頷いた。

「しかし仕方がない。自分では外せない」

「あ?」

思いきり顔をしかめた香燐に、女は己の鎖骨の辺りを持っていた本の角でトンと突いて首を振った。

「外せないんだ」

そう言うと、不意に興味を失ったように口を閉ざし、香燐に背を向けてまた歩き出した。

「・・・・何だ、アイツ・・・」

女の後ろ姿を見送って香燐は変な顔をした。

「自分では外せないって?何だ、そりゃ」



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