第4章 成り損ないの蛇とカキガラ
木の根元でまたも本を読む女を見つけたのは重吾だった。
煙草を手にしているが、火は点けていない。
理由はすぐにわかった。
栗鼠が居る。
時折紙を繰る以外微動だにしない女は、栗鼠の警戒心を煽る事すらなくただそこに居た。
矢張り目が悪いのだろう。時折目線だけで栗鼠の動きを追うときも、眉間の皺は消えない。
それでも穏やかだ。荷を下ろし安堵して、初めて辺りを見回したような脱力感と安逸さが窺えて、重吾は首を捻った。
何から逃げて来たんだ?
そう思った。何故だろう。
眺めているうちに足が動いた。女の傍らに歩み寄り、腰を下ろす。
栗鼠の数が増えて鳥が集まった。
女は本から目を上げない。
傷付いている。痛かったんだな。今も痛いのか?
傍らに腰掛けたまま、重吾は黙って隣の女の気配を受け止めた。
鳥が鳴いて栗鼠が走る。
それ以上の何事もなく、二人は木の根元に居た。