第21章 不確か
「入ってたんですか!貴方にも優しさという成分が!?わぁお、牡蠣殻仰天…」
「……もう何処をどう痛めつけたらいいか考えるのも面倒なほどボロボロだから見逃しますがね。口を慎みなさい。私にだってありますよ。微量ながらそういうものも、一応」
「一度頼み事を聞いたくらいで枯渇するような優しさはあってないようなものでしょう。コンビニ弁当の野菜みたいな優しさですねえ…。申し訳程度ってヤツですかぃダダダダッ、あッ、あッ、止めて下さい、目が回る…ッ、ぅあ、自分の声で頭が痛いッ、アダダダダダッ」
鬼鮫に髷を引っ張り上げられてグルングルン振り回された牡蠣殻が悲鳴を上げる。
「うるさいですねえ」
煩わしげに手を離した鬼鮫に恨みがましい目を向け、牡蠣殻は頭を抱えながら呻いた。
「…卑怯な…謀りましたね?」
「人聞きの悪い。気が変わっただけですよ」
「…納得いかない」
「納得いかないのはこっちです。考えてみればここに至るまで私は、あなたみたいな馬鹿に振り回されるだけ振り回されながら、我ながら信じられないほどの根気強さを見せてるんですよ。私という人間はむしろ半分以上が優しさ成分で出来てると言っても過言じゃないかと思いますね」
「…貴方という"人間"?」
「ー何です?」
「いや、さか……」
「ー何ですか?」
「…なでする気はありませんが、ここに至る忍耐に関しては私にしても尚継続しながら茨の道さながらだと思われ……」
「……」
「…るのは気のせいでしょう。多分」
鬼鮫により掛けていた体を起こして、牡蠣殻は歯の隙間からまた呻き声を漏らした。
「この状況は頂けません。まさか外道薬餌がこんな形で影響するとは、思ってもみなかった」
腕の傷に綿紗を押し当て、腰の鞄からきつく巻いた三裂の晒を出して寛げると、震える手で患部へ巻きつける。
「自分の血が混じったもの以外の薬が効いたのは初めてです。…正直驚きました」
仕上げの留めへ指を使った鬼鮫に素直に手を引っ込めて、牡蠣殻は再び鞄を探った。
「干柿さん、あなたもそろそろ限界でしょう?」
最早見慣れた薄緑の薬包に包まれた止血剤と、更の晒を取り出して牡蠣殻が鬼鮫の顔を窺う。
「…どういう意味です」
「貴方、いつもの干柿さんじゃありませんよね?何かこう…薄い」
「薄い?…そう見えますか」