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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第21章 不確か



「頼まれません」 

「そう言わずに頼まれて下さい。弱ってる人の頼み事は断らないのが定石です」

「そうすると四六時中あなたの頼みを聞けという話になりますねえ。寝言は寝て言いなさい」

「寝言なら聞いてくれるんですか。そうですか。わかりました。私、こう見えて実は目を開けて寝ているのです。気絶しているでもいいですね。ですから是非…」

「寝てる人間の言ってる事なんか知ったこっちゃありませんよ」

「正に即答の態ですねえ。返す刀の速さが実に貴方らしい…しかし寝ても起きても駄目ならどうすりゃいんです?」

「死になさい」

「ほら出た。また出た。ホント好きですね、そういう荒んだフレーズ。駄目ですよ、そんな事ばっか言ってたら死ね死ね団から入団案内が郵送されて来ちゃいますよ。そりゃもうホグワーツの入学案内並みの根気強さで。挙句に空飛ぶバイクに跨ったハグリッドならぬ遊園地のパンダカーに相乗りした前野と井沢が迎えに来ちゃいますって。それにね干柿さん。そもそも死んだら頼み事出来ないじゃないですか」

「だから頼まなきゃいいでしょう」

「化けて出ますよ?」

「それはいい。楽しみです。しかし私に視えますかね、そういう類のものが」

「成る程。まずそこですか。…干柿さん、ここはひとつ江原啓之か三輪明宏に弟子入りし…」
 
「ません」

「でしょうね。ええ、でしょうね。言ったら私も厭ですからね、そんなの。絶対に厭です」

「どういう頼み事をしたいのか知りませんがね。白茶けた顔で下らない事を延々と話しても無駄というものです。どのみち私にあなたの頼み事など聞く気はありませんから」

「無駄になるかどうかは貴方次第なのですが」

「だから無駄だと言ってるんです。本人が言うんだから間違いないですよ。何を聞いてるんですか、あなたは」

「死にかけてると思って優しく出来ませんかねえ」

「あなた実際さっき死にかけませんでしたか?餅を喉に詰まらせるか汲み取りの厠に嵌って溺れるようなどうしようもない死にかけ方でしたが、確かに死にかけましたよね。それでもこの状況なんですから推して知るべきです」

「それはつまり…」

「優しくしません」

「ですね」

「私の中のただでさえ乏しい優しさ成分が枯渇したら困るのはあなたじゃないかと思いますよ。私は痛くも痒くもない」
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