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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第21章 不確か



水を呑ませ、また吐かせを繰り返し、濁ったものが吐き出されなくなってから、漸く鬼鮫は牡蠣殻の口元に薬の器をあてがった。

涙と鼻水と涎で目も当てられない牡蠣殻の顔だが、その扁桃の黒い瞳が意思を持って動くのを見て、鬼鮫は漏れかけた安堵の呻きを噛み殺した。

「いよいよ死ぬのかと思いましたよ」

声を出せばいつもの皮肉な響き。
この馬鹿に振り回されたくらいの事で気抜けた声など誰が出すものですか。忌々しい。

「…残念でしたね。まだ死にませんよ…」

掠れ声で答えた牡蠣殻の汚れた顔に浮かんだ笑みに胸がギリギリと音を立てたように思った。

「来て正解でした。本当に目放しならない馬鹿ですよ、あなたは」

「…はは…ありがとう。干柿さん」

器を持った鬼鮫の手に薄くて血塗れの手が触れかけて離れる。それを空いた手で捉えて握り締め、鬼鮫は苦い顔をした。

「今更何です」

「…そうか…そうですね…」

細い腕から流れる血で鬼鮫は既に赤く染まっている。牡蠣殻も苦笑した。

「…すいません…」

「謝るくらいなら馬鹿な真似をするのは止めて欲しいものですね。どれだけ迷惑をかければ気がすむんですか」

「申し訳ありません…」

情けない顔でまた謝った牡蠣殻の、その左手が強く握り締められているのに気付いて鬼鮫は眉をひそめた。
掴んだ右手を離して、改めて左手を大きな掌で包むように握り直す。

「何を持ってるんです」

「………」

問われて牡蠣殻は、鬼鮫の掌の中で握り締めた手を開いた。

先刻煽った薬の薬包。呑み切らなかったのか、折り重ねた隙間から白い粉をふいている。

「こんなものを後生大事に持ってどうするんです…」

言いかけて閃く。

ー…大蛇丸からいい使った事…いや、それとも…。

うちの隠居がこいつを待ってるんだ。

カンクロウの台詞。

砂…あそこの食えない年寄りか?

いずれ誰かしらの為に持ち出そうとしている…そうですね?

考え巡らす鬼鮫を牡蠣殻が文字を読むように見詰めた。
その顎を乱暴に掴み上げ、疲れて汚れた顔に顔を寄せる。

「…この上何をやらかすつもりです?これ以上の勝手は許しませんよ」

間近く威圧しながら掌の中にある手を薬包ごと力任せに握り締めた。牡蠣殻の眉間のシワが、痛みを堪えて深くなる。

「渡しなさい」

「頼まれて下さるなら」
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