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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第20章 杏可也、そして牡蠣殻。


がぐりと視界が振れた。失せるときに揺れる世界に似ている。けれどこれは磯の業に関わりない揺れだ。

…成る程……。……これは……随分と効く……

牡蠣殻は開きたくもない目を見開いて、口端から涎が伝うのを意識しながら懐を探った。鬼鮫に一矢報おうと構えた小太刀が手に触れる。

大蛇丸が牡蠣殻に与えた、刃の薄い切れ味ばかりの懐刀。

これで掻き切れば即座に血が噴くわ。でも人を殺めるには向かないでしょうね。刃が薄過ぎて。自傷に向く獲物だわ。行き着けば自死に備える御守。

アンタに効く毒ってのを知りたいのよ。アンタだって知りたくない?

面白い事を言う。

そうか、そういう興味を持ってもいいのか。ひいては私が何者かという不可思議への好奇。考えてもいいのか。それを。
へえ。そうなのか。

しかし苦しい。今まで味わってきたものとは違う苦しさ。逃げた代償を払うのは容易ではないらしい。
 
蛇の空けた孔が広がる。

そこに何があるのか、欲が兆した気持ちの指す先に恋しい男の姿があった。傷付けて確かめたがる無茶な男が。

会いたくなかった。

顔が見たかった。

口もききたくない。

触れたくて仕方なかった。

構わないで欲しい。

嫌われたくない。



ただ恋しい。



あの人が求める限り生きていたい。
あの人を求める限り生きていたい。


それが今の私の意思。

長く居座っていた投げ槍の惰性が失せ、初めての感情が胸を締め付ける。



まだ死にたくない。


















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