第20章 杏可也、そして牡蠣殻。
くくと笑って水月が背中の断刀に手をかけた。
「止めなさい。どうでもやるならまとめて表に飛ばしますよ」
牡蠣殻が二人の間に割って入る。
「磯辺!いや、干柿殿の陰に入って気付かなんだ。やれ助かった」
伊草が鬼鮫から手を離して牡蠣殻に抱き付いた。
「為蛍と芙蓉がえらい事になって。一緒に来てくれんかの、もし」
「その為にも来たのです。是非お力添えさせて下さい」
井草の背中を叩いて宥め、その逞しい肩越しに牡蠣殻は水月と重吾を見た。
「外壁の表に大蛇丸さんとサスケさんが来ています。貴方達はそっちに合流して下さい」
「合流して下さいったって、このゴタゴタん中簡単に出してなんか貰える訳?」
水月が不貞腐れたように言うと、牡蠣殻は事も無げに頷いた。
「私が飛ばします」
「お前はどうするんだ」
重吾の問いに牡蠣殻は口早に答える。
「井草さんと行きます。大蛇丸さんのところには磯の者が二人と砂の人がひとり、もしかしたら争っているかも知れませんが、上手く治めてくれたらば有り難い」
「メンドくさそうな事簡単に言うなあ。磯も砂も殺しちゃっていい?上手く治めるってそれでよくない?」
「よくありませんよ。重吾さん、お願いします」
振られて重吾が目を上げる。
「どうすればいい?」
「磯の眼鏡には必ず会いに行くと、そう伝えて下さい。大蛇丸さんには、牡蠣殻は今から頼まれ事を果たしに行くからここは退いてくれと。磯と砂に手を出したら頼まれ事は霧散する旨、間違いなく解って頂きたいのです」
「わかった」
重吾は少し間を置いて頷いた。
「それと砂の化粧顔の人に」
頷き返して牡蠣殻は、困ったような顔で思案しながら続けた。
鬼鮫が眉を上げる。
「ありがとうと、言って欲しいのです。これは私の事なので必ずしもお願い出来たものではないのですが···」
「アンタ、ボクらのとこにゃ戻って来ない訳?」
ふと水月が訊いた。
牡蠣殻は眉根を寄せて首を捻る。
「···」
「戻りませんよ。いいから早く行きなさい」
口を開きかけた牡蠣殻を遮って鬼鮫が前に出た。
「何でアンタが仕切るのさ?」
「それだけの理由があるんですよ、この人に対しては」
「はぁ?」
「いや、詳しい話は機会があればのまた後程。頼み事、くれぐれもよろしくお願いしましたよ」
牡蠣殻が目をすがめた。