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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第20章 杏可也、そして牡蠣殻。



「···成る程」

鬼鮫はその耳を指の背でスッと撫で下ろした後、思い切りよく捻り上げた。

「···い···ッ!!···ぶ···ッ⁉」

痛みに声を上げかけた牡蠣殻の口をすかさず掌で押さえ、鬼鮫は牡蠣殻を引き寄せて警護の二人組を見やった。

「で?どうして中に入るんです?失せる気ですか?」

「···そのつもりですが」

むっつりと答えた牡蠣殻に鬼鮫は眉を上げる。

「あまり失せ続けると体が保たないでしょう。大事なときに失せ損なっては話にならない。ここは私に任せなさい」

「どうするんだえ?」

「···警備を叩き伏せるつもりですが、その手を離さなければ先ずあなたを削りますよ。何をコソコソしているんです?仮にもあなたはこの里の宰相でしょう、翆さん」

いつの間にやら我の袖を握り締めていた伊草に、鬼鮫は思い切り顔をしかめた。

不覚にも気付かなかった。初めて磯に乗り込んだときの深水を思わせる気配のなさ。磯に縁の草だからか?
鬼鮫は鼻白んで伊草を見下ろした。

「あ、いや、怒ってはならんぞな、もし。わちに悪気はないからにして、ちくと心細うなっとったところに心強い姿を見掛けては、わちでなくとも縋りたくなろうえ?」

「知りませんよ、あなたの事情なんか。···心細ければ自分の連れに縋ったらどうです」

少し離れたところに身を潜め、好奇心丸出しの顔をした水月と呆れ顔でそれを見下ろす重吾に気付き、鬼鮫は剣呑な顔つきになった。

「見覚えのある顔ですねえ。河童でしたか、確か」

「いやいやいやいやいや、何言っちゃってんですか、先輩ィ。可愛い後輩の顔も忘れちゃいました?物忘れの年にはまだ早いんじゃないの?あれ?そうでもないっけ?幾つだっけ、フカヒレ先輩?」

「···不思議ですねえ。全く何とも思っていない相手に何を言われようとまるで腹が立たない。煩わしくて削りたくなるだけですよ···河童なんか削った日には粘液や何かで鮫肌が鈍りそうで気は進みませんが、仕方ない。さあ、そこに直りなさい、墓荒らしの水月」

「ちゃんと覚えてんじゃん。光栄だね。お手合せ願える?ふ。まだ生きてるうちに会えて良かったよ。墓荒らしなんて真似しなくても鮫肌が手に入る。嬉しいねえ」

「忍刀への執着は相変わらずのようですねえ。全く度し難い」

「アンタに関係ないだろ?人の事に口出すもんじゃないよ、先輩?」

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