第4章 成り損ないの蛇とカキガラ
「・・・・・・」
立ち上がったまま完全に口を挟むタイミングを逃したサスケが、フイと窓辺に向かった。
そこには小さな卓があり、女が煙草を燻らせながら本を読んでいた。
かっちりした髷に後れ毛、顔の右下側に貼られた膏薬が目を引く。目が悪いのか深く眉根を寄せて、しかめ面で本に取り付いている。
「おい」
声をかけてから、サスケはドンと卓に手を着いた。
女が顔を上げた。
「・・・・・・」
束の間茫洋とした表情で辺りを見回し、サスケに視線が辿り着いたところで眉をひそめ、また本に目を戻す。
「ホラな。無駄だよ、サスケ」
成り行きを見守っていた水月が、頭の後ろで手を組んで椅子の背に身を預けた。
「話しかけても答えないんだって。相手にしない方がいいよ。腹立つだけだからさ」
「もしかして耳が聞こえないか、口がきけないんじゃないのか?」
重吾が言うのに香燐が鼻を鳴らす。
「コイツ、カブトとは普通に話してたぞ。耳も口も健常だ。みっともない膏薬を貼りっぱなしの顎はどうだか知れないがな」
「おい、お前」
サスケが再び声をかけて、女の胸ぐらを掴み上げた。煙草の灰が散って、何かがチリと音をたてた。
「お前、名前は」
女の顔に面倒そうな表情が浮かんだ。
「何をしにここに来た」
サスケの目が吊り上がる。
「無駄」
水月が肩をすくめた。
「僕が話しかけても丸無視だったんだよ。キミが凄んだって駄目だって。ほら、あるじゃない、北風と太陽っての?太陽が効かないのに北風が何とか出来ゃしないって話」
ちょっと違っただけなのに、誰も聞いた事のない話になっている。
女が煩わしげな顔をする。見咎めたサスケが胸ぐらを掴み上げた手を捻った。女の首元がぐっと締まる。
「大蛇丸は何処だ?」
女の口から溜め息が漏れて、生温かい風がサスケの髪を揺らした。
一瞬、サスケの気が窓の外に逸れる。
フッとサスケの手が上に上がった。
「あ?」
水月が腰を浮かせる。
女が消えた。
「な・・・だ・・・・し・・・ししし心霊現象ゥゥ!?」
喚く水月をよそに香燐が眼鏡を持ち上げて目を細めた。
「どういう事だ?サスケ?」
「・・・・知るか」
僅かに気色の悪そうな表情を浮かべて、サスケは空手を下ろした。さっきまで確実に女を締め上げていた筈の手。