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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第19章 この際牡蠣殻は関係ないらしい。


鬼鮫は煩わしげに鮫肌に手をかけた。

「兎に角あなたに拘っている暇はありません。邪魔をするなら削る迄。私にはこの後話を聞かないこの人をここから引きずり出すという思うだに厄介な仕事があるのです。あなた相手にいつまでもふざけてはいられない」

「先にふざけたのはどっちじゃん?何がシルバニアファミリーだ。あんま傀儡使いなめてんじゃねえぞ?おっさんよ」

スッと腕を交差させてカンクロウが笑う。鬼鮫は目を細めてその挑発的な視線を嘲笑った。

「たまたま一度命を救っただけで大きな顔が出来る相手じゃありませんよ、この人は。何せ何度も死にかけている。そもそも今朝も私に殺されかけたばかりなんですからね」

「···また訳わかんねえ事を··俺にしてみりゃアンタがコイツに絡む意味がわかんねえ。アンタコイツに何がしてえの?殺しちゃいたい訳、要は」

「ではあなたはどうしたいのです?砂に連れ帰ったところでこの人は今まで以上のお荷物になる可能性があるのですよ?殺傷力のある忌血を抱えた上更にビンゴブックに載るとなれば、厄介者以外の何者でもなくなるでしょう」

「ビンゴブック?どういう事じゃん?」

カンクロウの目が怪しむようにすがめられる。答えかけた鬼鮫が、何か感じた様にサッと立ち位置を変えた。牡蠣殻を跨ぐように立って視線のみ辺りに巡らせる。
その様に体を緊張させたカンクロウも、一拍遅れて気が付いた。

風だ。

「矢張りあなたがいる訳だ。全く邪魔な人ですよ、干柿さん」

声と共に我で起した風にトンビを翻した波平が現れる。

「先手先手と立ち回られて目障りだ。私が後手に回るのは誰が相手でも珍しい事ではないが、こうも忌々しいのは初めてだ」

舌打ちしながら斜に鬼鮫を眺め、その足元の牡蠣殻へ視線を落とす。半眼が眼鏡の奥で針のように光り、額に癇症の筋が浮かんだ。腰に手を回しかけ、フと笑ってトンビを捌くに留める。

「お遊びは終わりだ、干柿さん。今まで牡蠣殻が世話になった。礼をいいます」

口疾に言い捨て波平はカンクロウに顔を向けた。

「失礼仕る」

手を振って唖然とするカンクロウを失せ飛ばす。

「磯の本分は闘う事にない。あなたに会うことももうないだろう。···清々する」

「水遁潮流羅鎖!」

波平の手が再び上がるより早く、鬼鮫が雷光の速さで印を結んだ。
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