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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第18章 姉弟


「磯辺をどうするつもりだ?・・・草の頭に何をした?」

漠然とした、しかし明らかに不穏な疑念に波平の胸がざわついた。
阿杏也が白い顔でうっすらと笑う。

「心配しなくてもいいのよ。磯辺は必ずあなたのものになるから」

「駄目だ。阿杏也のやり方で磯辺を手に入れてはならない」

海士仁が手を上げた。波平を飛ばす構えだ。

「どういう事だ」

波平も巧者、ただで飛ばされるものではない。海士仁へきつい目を向けて質す。

「我らが磯の最たる禁忌」

首筋を擦りながら海士仁は自嘲した。

「師殺しを犯した俺の最後の矜持だ。生まれ里の禁忌は…犯したくない…」

「外道薬餌か」

波平の茫洋とした顔が厳しくなる。

小さな隠れ里、磯の最大の禁忌は、薬を以て人を絡繰る事、人を人でなくする事。

その昔、磯を始祖した巌と妻が袂を分かった原因であり草の生い立ちに深く関わる外道薬餌ー則ち麻薬は、磯では忌むべきものとして医を司る薬師の一族の他は扱う事を固く禁じられて来た。

「まさかそれを磯辺に使う?」

唖然と呟いた波平をビュッと冷たい風が巻く。

「話は終わっていない!」

バヂッと風を弾いて波平は阿杏也と海士仁を睨み付けた。

「あなた、磯辺が欲しいでしょう?」

躊躇いや後ろめたさを殺そうと、阿杏也が露悪的な笑みを浮かべる。

「あなただけの磯辺、あなた以外の誰のところにも逃げない磯辺よ?」

「それは最早磯辺ではない」

強く言い放つ波平に阿杏也の目が吊り上がった。

「ぐずぐずといつまでも好いた女一人手に入れる事も出来ないうつけ者が、賢しらに生半可な口をきくでない!腹を据えて事にかかれぬ出来損ないの磯影が、磯を滅ぼす愚君になる気か!」

「磯は滅びなどしない!その道を探る手を過たない限り、本草と共に人を助けてあり続ける!逃げるのを止めた磯はもう以前の磯とは違うのだ!」
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