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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第18章 姉弟


「黙りなさい!磯は私が強くする。お前と磯辺は新たな始祖の礎にならねばならないのです。私が全てをかけた謀、天秤が傾いだ段になったここで、誰にも邪魔はさせない!絶対に!」

「・・・磯は強くある必要はない。姉上、目を開けて生まれ里をご覧なさい」

諭すように言った波平に阿杏也は哄笑した。

「何とでもお言いなさい。賽は投げられたのよ!あなたが例によって考え込んでいる間にね、波平」

「私が愚図なのは今に始まった事ではない。何を見込んで企まれたか、姉上」

波平の手が腰に回り、海士仁が阿杏也の前に出た。

「失せろ。・・・磯辺は干柿といる。いっそ奪え。大国に頼り、上手くすり抜けろ。相手を見誤るな」

「何を・・・」

・・・言っているのか、わからぬ。

阿杏也が海士仁の胸を打った。

「差し出口は止めなさい海士仁!いい事、波平!今草を出れば、磯辺は草の頭領殺しでビンゴブックに載る。私が載せる。大人しく磯で待ちなさい。磯辺は必ずあなたのものになる。私を信じて待つのです!」

「あなたは一体何がしたいのだ!?止めてくれ!磯辺に手を出すな!」

「私は強い磯を創りたいだけ。逃げ隠れせず、安寧な暮らしが約束される磯を、大国に脅かされぬ里で磯の血を育みたいだけよ!それの何が悪いの!?何が間違っていると言うの!?」

喉が裂けるかと思うような阿杏也の叫びに波平は呆然とした。

海士仁が首筋を押さえて顔を背けている。もう片手で阿杏也を抱き寄せながら。

磯辺。

口減らずのひねくれ者。長く大切にして来たつもりの女。

私は本当に愚図の昼行灯なのか。何故こうなってしまった?

腰の太刀に触れた手がだらりと下がる。

もう片手がシッと上がり、海士仁がハッとした瞬間、波平の姿は消えた。















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