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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第18章 姉弟


「・・・私はあなたに駄目出し食らいにわざわざここに来たんじゃありません・・・。磯辺に会わせて下さい」

「今会いに行ったら鮫が出ますよ」

「ああ、干柿さんが嗅ぎ付けたんですか。またも遅れをとった訳だ、私は」

「暁に牡蠣殻を探させれば鮫が出るのが当然でしょう。表札出してる鮫の巣に頭を突っ込んで鮫がいると驚くわけ、あなたは?間を抜かすのも大概に飽きたらどうなの!」

「飽きるも何も、私は姉さんが言う程自分が間抜けとは思っていませんから。しかし元気ですねえ・・・悩みがなさそうで羨ましい・・・」

「あなたの事で悩みに悩んでハゲるかと思ってよ!?」

「・・・姉さん。どう考えても他に悩むべき事がいっぱいあるんじゃないかと思いますよ?」

「何に悩むかなんて私の勝手でしょう」

「あぁそうですね。姉さんは昔っから勝手でしたね」

いよいよただの姉弟喧嘩になってきたかと思われたところで、扉を叩く訪ないの音がして二人はピタリと口を噤んだ。

「久しいな、波平」

開いた扉に寄りかかり、薄く笑っているのは海士仁。

波平の顔から表情が消えた。

「間抜けめ。迅く帰れ」

首筋に手をあてて、海士仁は顎をしゃくった。

「ロクな事にならぬ」

「貴様に指図される謂れはない」

「よりによって磯の頭領が草に顔を出して、ただですむと?」

「私は磯辺を連れに来ただけだ。長居する気はない」

「阿杏也。伊草が探している。行け」

波平から視線を外して海士仁は阿杏也を促した。

「為蛍は?」

「・・・間違いないでしょう」

阿杏也が、チラリと波平を見て、ためらい勝ちに答える。波平は訝しんで眉をひそめた。

為蛍。
確か草の頭領。

「芙蓉もか」

重ねて尋ねる海士仁へ、阿杏也は迷いを振りきるように首を振った。

「芙蓉は助かるでしょう。そう加減したのだから」

「では何故磯辺の話を伊草に漏らした?」

海士仁の声が険を含んで刺すように尖る。

「待て。一体何の話だ」

波平が手を上げて話を遮った。

「・・・為蛍がどうしたって?姉さん、一体何をしたんだ?」

阿杏也が答える前に海士仁が刺々しく割って入る。

「波平、迅く磯へ帰れ。磯辺なら干柿といる筈だ。連れて行け」

「今磯辺を磯にやる訳にはいきません!まだ・・・」

「駄目だ!」

海士仁が声を荒げる。

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