第18章 姉弟
「わかりました。わかりましたよ。全く訳がわかりませんがわかりました。また私はやらかしたんですね。何だか知りませんが申し訳ありません。早く磯辺を渡して下さい」
「黙って磯に戻りなさい。磯辺には後で必ず会わせます」
「・・・また何を企んでいるのです、あなたは」
眼鏡の奥の半眼を糸のように細めて、波平は阿杏也をじっと見詰めた。
カンクロウを連れて草に現れたはいいが、第一発見者がよりによってこの姉とは。
顔を見た途端わかったのは、姉に変わりはないという事だった。様々な仔細を抱えた複雑な再開と思ったのは波平だけで、阿杏也は幼い頃から見馴れた邪魔すんな顔をしていきなり怒鳴りつけて来た。
「本当に手に負えないコね!波平!」
あぁ、ビックリしたとも。何なんだこの悪びれなさは。
内心は知らぬが、手前の不始末を思えばもう少し、いや、てんで盛大に申し訳ながっても良さそうなものだろうに。砂でのしおらしさは何処へいったのだ。
何かしら企んでは楽しげな姉も、企みを邪魔されて怒る姉も、幼い頃から見馴れたものだ。
優しい外見と穏やかな物腰で皆欺かれていたが、延々と彼女の企みや野心の被害にあい続けた波平にしてみれば、阿杏也は癇癪持ちの専制君主。家庭内独裁者と言っていい。
壮大な内弁慶・・・いや、少し違うな・・・鉄壁の外面・・・これだ。姉さんが磯を継いだなら、絶対に自分より長らしい長になったろうに。
それにしてもあれだけの事をして血色よく健やかにまだ何か企むというのは、どうした事なのだろう。少しは変わってみたらどうです、姉さんや。
「・・・また何を考えているのです。人の顔をじろじろ見て」
「相変わらずで何よりです」
「黙りなさい」
「何を考えてるか聞いたのは姉さんでしょう・・・」
「お黙りなさい」
「そのえらく高そうなヒラヒラした服は、もしや磯から持ち逃げした資金で購入しなすった?」
「あのお金は私が稼いだものです」
「・・・またそうやって言い切った者勝ちで押しきろうとする・・・どれだけ変わらないのです。えなりかずきですか、あなたは」
「何故そこで安達祐実と言えないのです?そういうところが駄目なのよ、全く・・・」
「単刀直入に言って、何が駄目なのかサッパリ」
「そういうところも駄目なのよ、嘆かわしい」