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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第14章 引き際の線引き


「潜師を見損なうな。人連れて失せるなんて真似は、海士仁以外だぁれも出来ねんだよ、うちの一族は。自分がどこに失せるかも覚束ねえのに、他のヤツの面倒なんかみれるか」

「?何でよ?牡蠣殻はやってたぞ?うん?」

「あれが普通だと思うなよ。特別なんだよ、巧者は」

鼻で息をついて藻裾は口をひん曲げた。

「何であの人ァ草に戻った?」

「色々用があるんだってよ。恩やらしがらみやら、まあオメエにゃ縁のなさそうなごちゃごちゃした用な。うん」

「またあの人は・・・」

舌打ちして藻裾は思い切り顔をしかめた。

「恩なんざ返す端から積もるモンなんだから、いちいち返そうとしてもしょうがねんだよ。どっかで吹っ切んねえと、いつまでも振り回されてきりがねえってのに引き際を知らないんだ、あのバカ」

空を見上げてまた息を吐く。デイダラは驚いて藻裾を見た。この口の悪い女が牡蠣殻をバカ呼ばわりするのを初めて聞いた。

「持ちつ持たれつってのがわかんねんだな、あの人ァ・・・」

「そんな事がわかるようなら磯を出ていないでしょう」

空で埋まった高い視界に鬼鮫の顔が写り込み、藻裾はブッと憚りなく噴き出した。

「おぉ、や、お久し振りです、アニさん」

「手の打ちようもなく相変わらずですね。牡蠣殻さんがよろしく言ってましたよ」

皮肉げに言う鬼鮫に藻裾は肩をすくめた。

「よろしくされたって本人がいなきゃ意味ないスよ」

「何の用です?正直磯に関わるのはもう御免なんですがね」

「アタシは磯のモンじゃありませんよ。牡蠣殻さんの事に片がついたら砂に行くのも決まってる」

「はあ、そうですか」

「・・・そういやカンクロウが牡蠣殻さんを砂に連れて来たがってたな。あら案外もしかしたらもしかすんじゃねえかなぁ・・・」

「挑発しても無駄ですよ。私に何をさせたいのか知りませんが、あの人は功者です。事態を弁えてすり抜ける事が出来ない身ではない」

鬼鮫の言葉に藻裾は心底呆れた顔をした。

「波平様と同じ事言うんだな、アンタ」

退いていた鬼鮫の表情が変わった。

藻裾は片眉を上げて頭を掻いた。

「わかった。もういいや。アタシはジャンジャンの味方だ。おい、デイダラ、悪かったな。アタシャもう行くわ。粘土は要らねえ。縁があったらまたな」

フイと手を上げた藻裾をヒュッと軽い風が巻き上げた。

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