第14章 引き際の線引き
「散々見せ付けた挙げ句行っちまうのか?何なんだオメエらは。そんなんだったら戻ってからイチャイチャしろってェの。えー、てか、何かそんなアンタらはヤだァ。喧嘩しててくれた方が楽しいのにィ」
呆れ顔をした飛段が半笑いで言うのにデイダラが真顔で首を振る。
「止せ、飛段。何だかやっかんでるみてェで悲しいぞ?仲直りしたんだろ、うん?いいじゃねえかよ。これでイライラ八つ当たりして見苦しい鬼鮫を見なくてすむ。清々するじゃねえか、うん?」
「イライラ八つ当たり?干柿さんが?そんなのいつもの事じゃないですか」
朗らかに言った牡蠣殻の頭を鷲掴みして向こうを向かせ、鬼鮫は払うようにその手を放した。
「行くならばひとつ肝に命じなさい」
向こうをむいたままの牡蠣殻は、鬼鮫の声音が帯びる色の変化に気付いて黙って次を待つ。
鬼鮫は両の手を脇に垂らして牡蠣殻の後ろ姿を見た。違和感を感じる。この女の後ろ姿を甘んじて見る自分。
「阿杏也という女、目に見えるままの性ではない。誰より足を捕られてはならない相手と心得て立ち回る事です」
牡蠣殻の目がデイダラを捉える。何故かデイダラが笑ったから。
デイダラは頭を掻いて牡蠣殻の目に答えた。
「どうかなァ。理屈じゃねえんだ。善い悪いの問題じゃねえ。騙されさえしねえでそいつの為に何かしたくなる気にさせるヤツがいる」
髷を揺らして再び年若い無法者が笑う。
「オメエみてえなバカはせいぜい気を付けんだな、うん」
牡蠣殻は束の間内に隠るような目で思い沈み、やがて馬鹿に落ち着いた顔でデイダラを見返した。
「私は貴方の言う意味を知っていたような気がします」
「・・・・・・」
鬼鮫は黙って牡蠣殻の薄い背中を眺めた。
深水がああして死んだこと、海士仁と阿杏也のこと、波平のこと、牡蠣殻がそれらについて何を感じ、何を考えて来たのか、まだ聞いていない。話していないことが沢山ある。出会って一年以上経つのにそのほとんどの時間は離れて過ごしているのだ。唯一砂で手を繋いで過ごしたあの一夜だけが牡蠣殻と落ち着いて過ごした時間になる。
「そうか。うん。・・・・そうだろうな。ならいいんだ」
デイダラはまた笑った。
「貴方は?阿杏也さんに会いたいんじゃないですか?」
牡蠣殻の問いにデイダラはぐっと口角を上げた。
「何だ?鬼鮫に聞いたか?それともイモ裾か?うん?」