第14章 引き際の線引き
「兎に角阿杏也さんに会いに行きま・・・ぁだッ」
よりによっての名前をあげて、当たり前のように言い出した牡蠣殻の頭を鬼鮫はスコーンと叩いた。ガックリ前にのめった牡蠣殻が、頭をもたげて鬼鮫を睨む。
「こんだ一体何ですか!?ふざけてる場合じゃないんががが・・・ッ、いだいイダイいだいッ、襟を引っ張らないで下さいよッ、傷にこすれるぅだだッ、イダイって!!」
腹立たしい。腹立たしいのにこの女がいる事で何かがどうしようもなく沸き立つのだ。冷え凝り固まっていた箇所に血が走り出し、胸が広がるようなこの心地。
鬼鮫は掴み上げた牡蠣殻の襟首を離して息を吐いた。
「どうしても行くと言うなら私も行きます。飛段、デイダラ、先に行って下さい。私はもう少しこの人に付き合ってから行きますから」
「そら別に構やしねえけどよ。牡蠣殻ァ、オメエさぁ、詰まんねえ事に首突っ込まねえ方がいんじゃねえの?またメンドくせェ羽目になっても知らねえよ?」
「まぁそうだな。何かあっても自分で何とも出来ねえだろ、オメエは。うん?」
飛段とデイダラに言われて牡蠣殻は笑った。
「どんな面倒が起きるかわかりませんが、でも行くんです。この事態がどう転がろうと、ただでは帰れない。非力ながら私にも筋があります。それに私は恩知らずですから痛い目を見て恩を覚えなければなりません。阿杏也さんの大事なお友達を放っては行けない。大蛇丸さんに黙って消える訳にもいかない。一緒にここまで来た連れを困らせたくはない。干柿さん、きっと会いに行きますから少し待ってて下さいね」
牡蠣殻が腕を伸ばして鬼鮫の手をとった。
「干柿さん。会いに来てくれてありがとう。今度は私が会いに行きます」
「また逃げるつもりですか?」
「逃げるんじゃないですよ。違います。それより貴方たちこそ疑われてもおかしくない身の上でしょう。揃いも揃って正真正銘の大首なのですから。早く行って下さい」
牡蠣殻はデイダラと飛段を見て頷いた。
「草は怖いところ。痛みや恐怖を感じない里の守り手を持つと聞きます。・・・あなたたちがそうなったらそれこそ面倒でしょうね。面倒が膨らむ前に草を去るべきです」
言いながら牡蠣殻が目をすがめた。腹が捩れて足元が抜けたような感覚が襲う。