第14章 引き際の線引き
牡蠣殻は真っ直ぐ見下ろして来る鬼鮫を見返し、首を振った。
「今出来ることがありそうならば草を出るわけにいきません。それに私には連れがいる。彼らに黙って消えるわけにもいかない」
「そいつらなら血相変えた伊草と一緒ンなってテメエを探してたぞ。オメエ疑われてんじゃねえか?」
サラッと言った飛段に牡蠣殻は眉間の皺を深めた。
「そうですか。私が疑われているのですか」
「鬼鮫やデイダラの言う通り、さっさとここォ出た方がいいんじゃねえの?痛くもねえ腹探られんのもヤだろうしよ。ん?それとも痛ェ腹なのか?まぁどっちだっていいけどよ、グズグズしてとばっちり受けんのァ御免だぜ?」
「・・・・・・・」
牡蠣殻は俯いて考え込んだ。
そんな牡蠣殻に、懐に呑んだ深水の形見を意識しながら鬼鮫は内心舌打ちした。
疑われているのではない。解毒させようとしている。ー誰から漏れた?
牡蠣殻を連れ出すのがより厄介になった。何故このタイミングで・・・・・
うんざりした鬼鮫の脳裏を白い顔が過った。
牡蠣殻が欲しい女。草を呑むつもりの女。
為蛍の第一夫人。磯影の姉。
為蛍は助かるまい。あの女が絡んでいるとすれば、事態が動き出した今為蛍は邪魔でしかない。この状況で医師である荒浜が片棒を担ぐのであれば事を運ぶのは容易だ。
第二夫人を巻き込んだのは牡蠣殻の情に訴える為だろう。実際牡蠣殻は動揺している。自分に出来る事ならやろうとするだろう。
牡蠣殻の血が血清である事が知れても為蛍さえ居なくなれば箝口は難しくはない。何しろ彼女は長年網を張り続けてきた草の第一夫人なのだから。
・・・・ああ。成る程・・・・・
鬼鮫がその企みに乗らずに行きすぎた事で、鬼鮫が急ぎ牡蠣殻を連れ去ろうとしたのと同様、早急に動く事を思い付いただろう相手。
タイミングがいいのも道理だ。互いにあの接見で腹積もりしたのだから。
殺しておくべきだった。
思わず舌打ちが出た。牡蠣殻がこっちを見る。
打ち明けるべきか。あの女の真意を知ったらば、牡蠣殻はどう動く?素直に草を出るか?・・・いや、そうはならないだろう。それどころか更に意固地になる可能性すらある。