第14章 引き際の線引き
「また河童かよ・・・どんだけ河童なんだよ、ボクは」
「水月殿よ。軽口を叩いておる場合ではないえ。急いでたも」
伊草が口早に水月を急き立てた。飛段とデイダラに申し訳なさそうな、しかしどういう訳か血走った目を向けて、首を振る。
「放っておいてすまんなえ。どうにもこうにも手放しならぬ事態が出来しての。ちと室で大人しく待ちゃれや。あれ、あの干柿殿にもの、出歩かんように言うての」
飛段とデイダラは顔を見合わせた。
「あー、そうだったそうだった、急いでるんだったね、アンタ」
頭を掻いて水月は肩をすくめた。同意を求めるように重吾を見ながら、明らさまに面倒そうに言う。
「でもさ、僕らも知らないよ、カキガラが何処にいるかなんて」
飛段とデイダラの視線が交錯した。
「昨日消えたきりなんだから。最後に会ったのはアンタの方だろ?何処行くか聞かなかったの?」
水月の問いに伊草は頭を振る。
「表で寝ると出てしまって、その表がどの表か一向に見当がつかんえ。海士仁も知らんと言うし、杏可也は捕まらんし、あとの頼りは連れのお主さん方だけ・・・・」
言いかけて伊草がデイダラと飛段をフと見た。
「・・・ひょっとして、女子を見んかったかえ?顔に膏薬を貼った髷の女子え?」
「知らねえなあ」
耳を掻いて飛段が面倒そうに答える。
「ソイツが何かしたのか?」
伊草が何の気なしに吐いた杏可也の名前に反応した内心を隠し、デイダラも素っ気なく興味なさげな顔で問う。
「いや、いや、何にも」
額に汗して伊草が首を振った。
「足止めしてすまなんだ。したが室に戻って外には出ぬよう。よしかえ?」
「・・・あそ。じゃ、行くか、デイダラ」
「ん?ああ」
行きかけて振り向いたデイダラと、すれ違い様に顔を上げた重吾の目がかち合った。
「立ち去れ。為蛍と第二夫人が毒を盛られた。要らぬ騒ぎに巻き込まれる前に消えろ。お前らには前科がある」
重吾の低い声にデイダラは笑った。後宮での事か。
しかし、為蛍と第二夫人に毒が盛られた?それで周りが慌ただしいのか。
重吾は確かめるように小さくひとつ頷くと、伊草と水月を追って立ち去った。
「・・・メンドくせェやなぁ」
傍らで聞いていた飛段が薄く笑って腕組みした。
「毒を盛られたか。毒を扱う里のヤツでも毒にやられんだな」