第14章 引き際の線引き
「そらそうだろ、毒食って生きてる訳でもねえだろうしな。うん」
妙に関心している飛段に呆れながら、何の気なしに表を見たデイダラは息を呑んだ。
紗を被った女が薄絹をひらめかせて急いでいる。辺りを憚るように時折足を緩め、周りを見渡す、その嫋やかな立ち姿・・・
「・・・杏可也?」
窓枠に手をついて思わず洩らしたデイダラへ、持ち上げられた紗の下から覗いた白い顔が向けられた。
滑らかな頬、穏やかな半眼、艶やかな口元。
それがデイダラを見止めて笑った。
綺麗だ。やっぱり観音像みてえに、綺麗だ。
束の間デイダラと見合ってから、女はまた薄絹をひらめかせて先を急いだ。
デイダラはそれを呆然と見送る。
確かに杏可也だ。俺を見て笑った。覚えてるんだ。・・・ここで何をしてる?
「おい、コラ、行くぞ、デイダラ。何してンだ?」
「・・・・うん?ん、ああ・・・」
「まさか昼間から布団に潜ってイチャついちゃねえだろうけどよ、あー、デイダラ、オメエ先に部屋に入れよ?出会い頭に鮫肌食らうのなんざ俺ァごめんだかんな」
「うん?ああ・・・うん・・・」
「え?構わないの?・・・どうしちゃった、デイダラ?・・・あの、伊草が若い男といたのがそんなにショック?マジで?」
「・・うん・・・まあな、そうだな・・・うん」
「えぇえええェェ!!??ちょ、ヤだな、オメエ!!!そういうコト?そういうコトォ!!??ちょ、あんまこっち来んな。何か怖い。暁のメンバーが今初めて怖い。言っとくけど俺ァ全然そっち方面にゃ興味ねえからな!?わあ、ビックリした!」
「・・・そうかよ。行くぞ、ほら」
「行くよ、そら。今あなたと二人きりって凄く怖い。早く鬼鮫の鮫面が見てえ」
飛段の当惑した様子に、ぼんやりしていたデイダラが目の色を取り戻す。
「あん?鬼鮫の鮫面が見てえ?何言ってんだ、テメエは。気色悪ィ」
「気色悪ィのはこっちだっつの!このぺてん師め。今の今まで俺を騙しやがってよ!」
「・・・・・ホント何言ってんだ、大丈夫か、オメエ?訳わかんねえ事言ってっと置いてくぞ、うん?」
「・・・・・ちょっと離れて歩いていい?」
「何だ、うざってえな!好きにしろよ、うん?」
我の招いた誤解も知らず、冷たく飛段をあしらってデイダラは考え込んだ。