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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第13章 鬼鮫と磯辺


「何であろうとあなたは私の側にいるという事ですよ」

不意に牡蠣殻の顔が真っ赤になる。

「・・・・ほう・・・」

思いがけない反応に、鬼鮫は目をすがめた。
いたたまれない様子で落ち着きない牡蠣殻をしげしげと見る。

「これは意外だ。・・・牡蠣殻さん、あなた、照れてるんですか?」

その一言にカッとなった牡蠣殻が、また平手を振り上げた。間髪入れずその手を掴んだ鬼鮫は呆れ顔をした。

「いつからこう手が早くなったんです?言っておきますが、あなた如きに簡単に打たれる様な私ではありませんよ?そもそもあなたは弱すぎる。どうしても私に手を上げたいのならばもっと鍛えなければ話になりません」

捕まれた手を振りほどこうともがく牡蠣殻を仕方なさそうに見て、鬼鮫は放り出すように手を離した。

「あなた、一体何に怒ってるんです?一人で怒ってたってわかりませんよ。言いたい事があるなら言ってみなさい」

「・・・・・・・」

何か言おうとして、牡蠣殻はパチンと口を閉じた。
鬼鮫から目を反らし、しかめ面をする。

「理由もなしに手を上げているのなら、次からはその都度腕をへし折りますよ?まあ、あったってへし折る事も充分あり得ますがね、ないよりはあった方がまだ穏便にすみますよ?」

「・・・姓名をあげつらうのは止めて下さい」

「・・・・・は?」

明後日の方向から降って湧いた答えに、鬼鮫は目を瞬かせた。

「嫌いなんです。氏と名を繋げて呼びつけられるのは。イラッとする」

「成る程」

「真面目な話をしているときに面白い面白い言うのも止めて下さい。相手にされず流されているようで、馬鹿と言われるより腹が立つ。どっかの馬鹿ともそれでよく喧嘩しました。これには慣れない」

「ほう」

「私は・・・私は、貴方のもので在って一向に構いません。ですがそれはあなたの言う事全てを許諾するのという意味ではありません」

「フン?」

「私の事は私が決めます。私が貴方のものであると言うなら、それは貴方に強いられて従ったものではなく、私が自ら望んでそうなったという事です」

「これはこれは」

「・・・・よくも歯をへし折ってくれましたね?」

「おや、覚えていましたか。話が長くなってきたので忘れたかと思いましたよ」

「・・・そのうち意趣返しします。覚えてろ」

「それもまた先が長そうな話ですねえ」
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