第13章 鬼鮫と磯辺
いきなり牡蠣殻が鬼鮫の顔目掛けて躊躇いもなく拳を繰り出した。
「ぉお!?」
想定外のアクションに飛段とデイダラが目を見張る。
「・・・・やれやれ」
その拳を難なく大きな手で止めて、鬼鮫はデイダラと飛段を見た。
「出ていっちゃくれませんかね?」
「面白くなりそうなのに?」
「なあ」
「だからこそですよ。恨んで欲しいんですか、私に?」
「テメエに恨まれたって別にいいけどな。てかアレ?今まで恨んでなかったの?」
「だよな。恨んだからってソレが何だ?今更何にも変わる気もしねえぞ?うん」
「成る程。しかし今度という今度は何か変わるかもしれませんよ?試してみますか?」
尖った歯を覗かせて、鬼鮫が凄い顔で笑う。
飛段とデイダラは互いの顔を見合わせて、それぞれ鬼鮫を見、牡蠣殻を見た。
「・・・ん、何か邪魔みてえだな」
「ええ、邪魔ですよ。やっと気付きましたか」
「馬に蹴られるっての、こういうの。だろ、うん?」
「さあ?しかしここに居続けるなら確実に鮫肌に削られるでしょうね」
牡蠣殻の拳をぎりぎり締め上げながら、鬼鮫が淡々と言う。
牡蠣殻は歯を食い縛って耐えながら鬼鮫を睨むのを止めない。
「あんま揉めんなよ?メンドくせぇからよ、うん」
「まだ昼間なんだからな。わかってっか?」
「わかってますよ」
素っ気ない鬼鮫の返答に薄笑いしつつ、飛段とデイダラが室を出た。
後には鬼鮫と牡蠣殻。
「さて」
締め上げていた手を離して、鬼鮫は腕を組んだ。
「ここらでひとつ、改めてはっきりさせましょうか」
牡蠣殻は三白眼で鬼鮫を見返したまま、声を出さない。
鬼鮫の左の眉が器用に上がった。
「牡蠣殻さん、あなた、何故私から逃げるんです?」
「・・・・・・・」
「まだわかりませんか?いくら逃げ出そうとあなたは私のものなんですよ。あの宿で会ったときからもうずっと。逃げる度私はこうしてあなたを捕まえますよ。腹を立てながらね。生きていようと死んでいようと私の傍らに必ず捕らえる」
牡蠣殻が平手を振りかぶった。
ヒュッと空を切る音をさせてしなった腕を、鬼鮫がガッと握り締める。