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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第12章 牡蠣殻はやっと眠たい


「意外?私はそういう女ですよ。いよいよ心だけ産まれて来るべきだったかしらね?」

「残念でしたね、そうではなくて」

窓枠に手をかけて、鬼鮫は表に飛び降りた。

「待ちなさい、話はまだ・・・」

「私にはハナからあなたと話す事などありません。失礼」

黒い外套を翻して、鬼鮫は大股に葉桜の樹へ歩み寄った。
長い腕を伸ばせば牡蠣殻の袷の裾へ容易に手が届く。グッと引くと、牡蠣殻の体が幹の叉から滑り落ちた。

「ぅわッ」

頓狂な声を上げながら落下して来た牡蠣殻を受け止め、鬼鮫は驚きに開きはしたものの覚醒しきっていないその目を覗き込んだ。

「こんなところで寝る人がありますか。何故わざわざ寝辛いところに寝るんです。本当にバカですね、あなた」

「・・・・・・」

まるで状況が掴めていない顔で牡蠣殻は辺りを見回した。鬼鮫の腕から降りて地に足をつけると目をショボショボさせる。寝足りないのかボウッとしたまま再び樹に登ろうとして鬼鮫に髷を鷲掴みされた。

「寝る場所くらい支度して貰ってるでしょう?見威張りな里ですからね、居づらい室礼なのは目に見えていますが、我慢してそこで寝なさい。あまり馬鹿な真似をしていると傷に触りますよ」

己がつけた傷を覆う包帯を眺め回し、鬼鮫は顔をしかめた。

「・・・・・・」

牡蠣殻はぼんやり頭を掻くと樹の根元に腰をおろし、また腹の上で手を組んで目を閉じた。

「・・・こうなるともう動物と変わりませんね・・・仕様もない。穴でも掘って放り込みますか?そこで休みなさい、山の獣のように」

呆れて呟くと鬼鮫はやおら屈み込んで牡蠣殻を担ぎ上げた。

「全く文字通りのお荷物・・・」

胸をガツガツと蹴りつけて来るのをうんざりと流して歩き出す。

「いつまでだんまりを決め込むつもりです。私に痛め付けられて腹を立ててるんですか?それは検討違いというものです。あなたが弱いのが悪い」

鬼鮫の歩調で揺れながら、牡蠣殻は人相が変わるほどのしかめ面をした。

「ムッとしたって仕方ないですよ。本当の事なんですからねえ」

その顔を見てもいないのに、鬼鮫はあっさり言い当てて窓辺に立つ杏可也のところへ行った。

「この人の部屋は何処です?本人に聞いたってこの通りで答えやしないでしょうからね」

杏可也は二人を見比べ袖で口元を隠して笑った。


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