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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第12章 牡蠣殻はやっと眠たい


「教えません。どうやら磯辺はあなたの前では唖になるようですね。せいぜい困らされるといいわ。いい気味」

「磯の人間は腹が立つ連中ばかりですねえ。ロクでもない」

「杏可也さん」

顔をもたげた牡蠣殻に、杏可也は穏やかな微笑を向けた。

「厭なら自分で何とかなさい。得意の減らず口はどうしたの?無粋なこの人に何とか言っておやりなさいな」

牡蠣殻は開きかけた口をキッと閉じて黙り込んだ。

「ふふ、また随分と嫌われたものですねえ、干柿さん?報われない事。・・・いいえ、ちょっと違うわね。自業自得かしら?」

杏可也が面白そうにまた袖で口元を隠す。

「どうにもちぐはぐな取り合わせ。思い直された方がよくなくて?」

「やれやれ、無意味な問答はもうごめんですよ。煩わしい」

鬼鮫はうんざりと言って杏可也に背を向けた。

「そんな風に言っても、今まで何を話していたか言われたくはないのでしょう?口を慎みなさいませ」

「言われたくないのはあなたこそでしょう。私は一向に構いませんよ。どうぞご自由にいくらでも話して下さい?どうせ大した反応はしやしませんよ、この人は」

「わからなくてよ?悋気は人を変えるもの。磯辺も女なんですからね。甘く見てはいけません」

「生物学的に女性である事は間違いないのでしょうね、多分。情緒面ではまるで保証の限りではありませんが?」

鬼鮫の言葉に眉根を寄せた牡蠣殻が杏可也に目を向けた。それを受けて杏可也は首を傾げる。

「今の今まで干柿さんとお話していたのですよ。色々とね」

牡蠣殻は答えずに頭を垂れた。眠いらしい。欠伸とも溜め息とも吐かない音を漏らして、傷だらけの体を大儀そうに身動ぎさせる。

歩みを止めない鬼鮫に担がれて遠ざかって行く牡蠣殻を見送って、杏可也は口角を上げた。

「ふ。・・・甘えて。可愛らしいわね、磯辺・・・少し前とは違うよう。厄介だ事・・・・」














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